徳島県アンバサダーの取材で、神山まるごと高専の1期生5人にお話を聞かせてもらうことができた。
座談会などを通して、とても密な時間を過ごすことができ、驚くことも多かった。
校内に入ると、神山杉の香りと共に、開かれたスペースや思考を整理するホワイトボードがあちらこちらで目に入った。"高校"とはまた違う雰囲気を既に漂わせている。
1期生・ひなこさんの「神山まるごと高専について」というプレゼンによると、名西郡神山町は人口約5000人の過疎地域で"地方創生の聖地"。"神山まるごと"高専という校名には、神山からまるごと学ぶという意味が込められており、地域との繋がりを大切にしながら学びを深めている。
学ぶのは「テクノロジー」×「デザイン」×「起業家精神」。テクノロジーを用いてモノを作り出し、デザインを用いて表現し、起業家精神を用いて社会にコトを起こす。
技術的な面だけでなく、問題解決力やリーダーシップ、チームワーク、レジリエンス(しなやかさ)も学ぶ。5年間全寮制ということもあり、生活や人間関係においても濃密な時間になり、吸収できることも多そうだ。
1期生ということもあり、「自由と責任」という面から、ルールを作るのか否かを初めて判断する代でもある。『自由は責任の上に成り立つ』というのは私も中学生の時に担任の先生から言われたことがあり、それを思い出した。
その後の座談会で、私は「未来」についての質問をした。
●神山まるごと高専に入る前と入った後での、将来のビジョンの変化
まもるさんは「神山まるごと高専に入る前は、起業はハイリスクハイリターンだと思っていたが、高専で学んだ後の起業はローリスクハイリターンとまで思えるようになった。起業が自分の中の選択肢に入った」と語る。
なおきさんは「将来のビジョンは"でかいゲームを作ること"だが、同時にリーダーシップも学びたかった。神山まるごと高専では、それが両立して学べると思い入学した。今は授業でC言語を学んでいる」と話した。
将来のビジョンが漠然としていた学生は、高専で様々なことに触れることで新たなビジョンを見つけ出し、ビジョンを持って入った学生は、抽象的だったイメージをより具体的にすることができている。
●特に有用な授業
興味深かったのは、なおきさんが挙げた「ネイバーフット概論」の授業。起業家精神を培うために、ネイバーフット(近所・地域の人)との共生や傾聴力について学んでいるそうだ。
神山からまるごと学ぶために、神山の人々とのコミュニケーションを通して、自分を客観的に捉える方法や傾聴力によって話を聞き出す方法を学ぶ。
●行動力について
そらさんは父親が起業したこともあり、起業家の"まずやってみよう精神"、つまり行動力の大切さを深く実感している。失敗は成功のためのものと捉えてもいいのかもしれない。
まもるさんは、「何か思いついたらその日に行動することもある」と言う。
不安な気持ちよりも、ワクワクなどのポジティブな気持ちや熱意が背中を押し、先のことを考えすぎて不安になる前にまず行動しているようだ。
また、神山まるごと高専には思いついたアイデアに共感する仲間や、実践に向けて具体的にアドバイスをくれるスタッフの皆さんがいて、"社会のため"になるということを示せるプレゼンを作成できた場合に資金援助もされるという。
●今後の日本の教育システムについて考えること
なおきさんは「小学校までは一斉授業は良いと思うが、現在、ジョブ型雇用が主流なように"強み"を伸ばす教育が良いのでは」と話す。「今後、AIの台頭により、人間がする必要がある仕事が減ってくると思う。その中でAIにできない仕事に焦点を当てていきたい」とも語った。
今回取材させていただいた神山まるごと高専の学生は皆、私より年下だったが、エネルギッシュで積極性に溢れた姿勢に刺激を受けた。
自分の"好き"を追求し、もっと学びたいという思いから神山まるごと高専を選んでいることが主体的で素晴らしいと感じた。
世界と比べて主体性を持つ人が少ないと言われる現代の日本で、このような存在は貴重であるとともに、このような若者が"好き"を追求できる学校・環境がもっと整えられるべきだと考える。
神山まるごと高専1期生の入試倍率は9倍だったということからも、まだまだ主体性を持つ若者は日本にもいることが分かる。
これからの学校教育の在り方がよりフレキシブルになることを期待したい。
そして、神山という地に全国から若者が集まってきているという事実があることがとても嬉しい。これから神山が、まるごと活性化していく姿が楽しみだ。