移住者インタビュー

Interview

Iターン30代サービス・飲食神山町

豊かな自然の恵みを凝縮したピザを焼く日々。

塩田ルカさん・舞さん

出身地:大阪府

移住年:2014年

現住所:神山町

職業:自営業

取材年月:2015年12月

神山町で旬の地元野菜をふんだんに使った手捏ね生地のピザを提供する「Yusan Pizza」。2014年のオープン以来、県内外から人気を集めるこのお店は塩田さん夫妻の夢の結晶でもあります。3人の子供たちと一緒に移住を決めたきっかけからお伺いしました。

人の温かさに惹かれて移住を決意しました。

--まずは神山町へ移住を決めたきっかけから教えてください。

ルカさん:僕たちは大阪に住んでいたんですが、知人や友人に徳島出身という方が多かったんです。その中の一人から神山町のことを教えてもらって。もともと特定非営利法人(NPO)のグリーンバレーのウェブサイトも見ていましたし、神山町で活動していた歌い手の宮城愛さんが好きだったりと、パズルのピースとしてはバラバラだったんですけれど、振り返ってみれば、不思議と神山町という場所が気になっていたように思います。一度、家族全員で足を運んでみようと考え、グリーンバレー代表の大南さんとコンタクトを取ったのが始まりでした。

舞さん:彼が有機栽培の野菜などのバイヤーをしていたこともあり、そのうちに環境の良いところへ移住したいとは考えていたんですね。二人ともカフェで働いていた経験もあって「いずれ自分たちのお店をやりたいね」という話はしていました。移住の準備をしていた頃は、まだ3人目の子供が1歳くらいでしたし、周囲からは「もう少し落ち着いてからにしたら…」と心配されましたが、一刻も早く自然がいっぱいの環境に身を置きたくて(笑)。山の中へキャンプにでも出掛けるような気分で、とにかく移住する日を楽しみにしていたことを覚えています。

ルカさん:最初は二人で「カフェをやりたいね」という話をしていて。でも、神山町にはもうカフェが何軒も開業していたので、それなら、ここにまだ一軒もないピザのお店をやろうと考えたんです(笑)。最終的に神山町を移住先に選んだ決め手となったのは、子供たちがここを気に入ったことですね。今までいろんな土地を見てまわったのですが、子供たちが「また行きたい!」と口にしたのはこの場所だけだったんですよ。

舞さん:実際に見に行った土地によっては冷たい態度の方もいらっしゃったので、グリーンバレーをはじめとする地域の方々が親切に迎えてくれたのは嬉しかったですね。そういう神山町で暮らしている人の温かさを、子供たちも肌で感じていたんじゃないかと思います。

--とても雰囲気があって素敵な「Yusan Pizza」の佇まいですが、自分たちが考えているお店にぴったりの物件を探すのも大変だったのではないでしょうか。

ルカさん:そうですね。いろいろな方に協力していただきながら、とにかく自分の足であちらこちらを探し回って…。この場所に「Yusan Pizza」ができるまでには1年くらいかかっているんですよ。小高い丘の上にあるので、石窯の煙突からピザを焼く煙が出ても近所の迷惑にならないし、住まいとお店が一緒という理想のスタイルが実現できる点が嬉しかったですね。

舞さん:私たちが「ここはいいな」と思っても、残念ながら条件が合わなかったり、ロケーションとしては絶好でも、石窯の設置が難しかったり、駐車場が確保できなかったり…。でも、時間をかけて探した分、この家に巡り合うことができて本当に良かったと思っています。

ルカさん:この店舗はもともと納屋として使われていたところだったんですよ。築100年以上経過している建物だったので、グリーンバレーが紹介してくれた地元の大工さんが、限られた予算の中で改修を頑張ってくださって。趣きのある建具の工夫をはじめ、傾いている部分をジャッキアップしたり、崩れているところを修繕していただいたり…。壁に漆喰を塗ったりする作業は、神山塾の方々や学生さんに手伝っていただきながら、自分たちで仕上げていきました。

舞さん:4年くらい誰も住んでいない空き家だったんです。今のお店の様子からは想像もできないほど荒れ果てていて。足を踏み入れたら、いろいろな生き物がゴソゴソ逃げていくような状態でした(笑)。どこから手をつけていくべきか、呆然としてしまう有り様でしたね。大工さんはもちろんですが、地域の皆さんが手伝ってくれて、やっとお店の形ができたんですよ。

ルカさん:そうそう。僕が掃除していたら、タヌキが壁の穴から逃げていったりして。今でもピザを焼いていると、たまに顔を出すので、自分の家だと主張しているのかもしれませんね(笑)。

人間関係の濃さと水の美味しさにびっくり。

--実際に神山町に住んでみて、特に印象に残っていることは。

ルカさん:四季を通じて地域の行事が多いのはびっくりしました。地元の消防団に入ったんですが、そういうことも初めての経験です。人間関係も都会と比べて格段に濃いと思います。表面的な付き合いではないので、正直に本音を口にしていかなければ駄目なんですよね。「行けたら行きます」みたいな社交辞令はNG。なかなか地域の行事に参加できないことも多いんですが、そういうときは正直に理由を話すことが信頼関係につながると地元の方が教えてくれたんです。変に遠慮したりするとギクシャクしてしまうし、お互いにストレスになるだけだからと。

舞さん:確かに都会と比べると行事は多いですね。思ったより歩かない生活だなとは思いました。私も自動車の免許は持っているんですが、ずっとペーパードライバーだったせいもあり、こちらの山道を走るときは怖くて。まだ初心者マークが外せないですね(笑)。それから、印象的だったのは、元気なお年寄りが多いことですね。毎日のように畑仕事に精を出したり、薪を割ったり。何でも自分の力でこなしてしまうバイタリティーのある方が多いなと思いました。

ルカさん:元気なお年寄りが多いのは環境がいいせいもあるのかも。一番下の子供がアトピーで苦しんでいたんですが、神山町で暮らしているうちにすっかり良くなって。空気はもちろん、水がいいんですよ。水は本当に美味しいですね。うちのピザは地元で獲れる野菜を使っているんですが、野菜の味が抜群なのは、生産者の方々の努力に加えて、ここの水のおかげですね。

舞さん:水が甘く感じるんです。水の質があまり良くないところから移住してくると、その差がはっきりわかりますね。お客さまに出すお水は浄水器を通していますが「これはどこのお水ですか」と聞かれることが多いんです。それだけ自然の恵みが豊かな土地なんでしょうね。

子供たちが気に入った土地で生きていく。

--3人のお子さんの両親として、育児の面から見た神山町はいかがでしょうか。

ルカさん:大阪に住んでいた頃は治安が心配だったんです。毎日のようにパトカーのサイレンが聞こえるような環境で、子育てには少し不安がありましたね。あまりにも当たり前だから誰も口にしないんだと思いますが、神山町はとても治安がいいところだと感じています。

舞さん:同世代の友達もできましたし、子供たちも楽しく過ごしています。特に真ん中の女の子は特に神山町の生活が合っているみたいで、すっかりワイルドになりましたね。野生のイチゴを採りに行ったり、ヤモリを山ほど捕まえてご近所さんに驚かれたりしています(笑)。

--かなり「Yusan Pizza」の認知度も上がってきたと思いますが、これまでの暮らしとこれからの暮らしについては、どのように考えていらっしゃるのでしょう。

舞さん:「Yusan Pizza」を始める前は「一日に5組くらいは来てくれたら…」と話していたんです。昼夜ずっと営業して、やっと暮らしていけるくらいかなと思っていたんですが、有り難いことに、今はあちらこちらからお客さまが来ていただいて。「こんな山の中でピザのお店をやって大丈夫?」という周囲の心配もあったんですけれど、最高の自然の中で美味しい食べ物を提供して成功している例はいくつもありましたし、そこは頑張ろうと思っていました。少しずつ子供たちが大きくなるにつれて、私たちの暮らしも少しずつ変わっていくと思います。地域との関わり方も含めて、神山町での生活を楽しんでいきたいですね。

ルカさん:ほかの地方でお店をやっている方に聞くと「同じ地域の人はまず来てくれない」という意見が多かったんですが、神山町はちょっと変わっているのか、町内の人がよく足を運んでくれるんです。それは本当に有り難いなと感じました。新しいものを面白がる余裕というか、移住してきた人を自然と応援する精神的な土壌があるのかも。これからも地元の豊かな自然の恵みを凝縮したピザを焼きながら、少しずつ理想の暮らしに近づいていきたいと考えています。