移住者インタビュー

Interview

Iターン40代編集・クリエイター美波町

映画『PLAY!』の撮影を担当。映画を見て、徳島県南部の雰囲気を感じて欲しい

下垣外純(しもがいと じゅん)さん

出身地:愛知県

移住年:2022年

現住所:美波町

職業:カメラマン

年代:40代

取材年月日 2024年9月

 

阿南高専の学生たちがインターネット上の対戦型競技eスポーツの全国大会に出場した実話をもとに制作された『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』。この映画は古厩智之監督と以前から親交があった下垣外さんがカメラマンを努め、美波町や阿南市など徳島県南部で撮影が行われました。移住後の仕事のこと、撮影の裏話についてお話を伺いました。

―――移住して来られる前は東京にお住まいだったそうですね。移住を考えるようになったのはいつ頃ですか?

移住する1年半くらい前ですかね。「このまま都会でずっと住むのもな…」という違和感は以前からあったのですが、コロナでぽっかり時間ができたことで具体的に考えるようになりました。

―――徳島は初めから候補地だったのでしょうか?

最初は東京周辺で考えていたんですけど、関東近辺だとなかなかしっくりくるところがなくて、徐々に徐々に東京を離れ、四国まで来ちゃったって感じです。

―――どんな場所を探していたんですか?

山が近くて海もあるようなところを探していました。
当時息子が小学校5、6年生だったというのも移住に踏み切った理由のひとつです。家族で移住するなら息子が中学生になるタイミングが最後のチャンスと思い、最終的に徳島と高知のどっちにするか迷って、徳島に決めました。徳島(美波町)はカヌーイストで作家の野田知佑さん(生前は美波町在住)のエッセーを読んでいたので、なんとなく親しみを感じていました。

―――移住にあたって仕事の心配をされる方も多いですが、カメラマンという仕事は特に都会を離れると難しいのでは?

そうですね。「移住したら仕事がなくなるんじゃないか」という恐怖はあったと思いますが、正直、あんまり考えずに来ちゃったっていう。「もし撮影の仕事が無かったら、現地で何か仕事をすればいいか」みたいな。ずっとフリーランスでやってきたこともあって「撮影の仕事が無くなっちゃったら、無くなったでしょうがないかな」ぐらいの気持ちではいましたね。行き当たりばったりというか、楽観的に考えていました。

―――そうした中で古厩監督から映画撮影のオファーがあったのは、スゴいですね。

そうですね。びっくりしました。古厩監督と知り合ったのは10年以上前。カメラマンになる前にアシスタントをするのですが、初めて会ったのはその頃です。カメラマンになってからも監督の仕事をやらせてもらっていたので、それで声をかけてくれたのだと思います。

↑奥平大兼×鈴鹿央士 W主演『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』は2024年3月8日から全国公開(徳島県ではイオンシネマ徳島にて上映)された。Amazonプライムで配信中(2024年9月現在)。

―――映画には徳島県南部の風景がたくさん出てきましたが、下垣外さんが「ここを撮りたかった!」というところはどこですか?

美波町は薬王寺が見えるっていうのが特徴的な町なので、薬王寺を背景に厄除け橋を主人公が自転車で渡ってくるところや、薬王寺から見下ろした町全体の風景はいいなと思っていました。汽車が走ってて、川が流れてて、その奥に海が見える。町全体が見渡せるところを撮りたいなと思っていました。

―――漁港やオオキタ(スーパー)、日和佐駅など見知った場所に、人気俳優の鈴鹿央士さんや奥平大兼さんが立っている映像を見るのは、不思議な感じでした。

ラストで主人公たちが日和佐駅に戻ってきて、バラバラに帰って行くというシーンも撮ったんですが、丸まるカットになっちゃって。エンドロールに出てくる写真はその時に撮ったものが使われています。

―――鈴鹿央士さん演じる達郎の父親役を美波町の移住担当だった福岡さんが演じていたのにも驚きました。

美波町役場の福岡さんはずっと撮影のサポートについてくれて、すごくお世話になりました。撮影は冬だったので、福岡さんが町内会の婦人部の方たちに声をかけてくださって、お昼ごはんに温かいお味噌汁を出してくれたり、撮影場所の交渉も福岡さんがいてくれたおかげで信用して貸してくださったり・・・。そうした感謝の意味も込めて、監督は「映画に出したい」と狙っていたのだと思います。

―――大活躍でしたね。

役とはいえ、鈴鹿くんに罵倒されるシーンでは、しょんぼりしていました(笑)。

―――観光PRや地域活性化を目的に、地方を舞台にしたドラマや映画の制作が各地でさかんに行われているので、今回のように古厩監督との縁で映画ができたことは、ものすごくラッキーだと思います。

ぜひ町のPRに使ってもらいたいのですが、「最後はみんなハッピー」という青春映画じゃないので、宣伝には使いにくいのかもしれませんね。

―――阿南高専のeスポーツ研究会をモデルにした作品とあって、映画館には高専生らしき学生も多く、とても楽しめました!

そうですか。よかったです。個人的には「移住したら映画なんて撮影できないかな」とちょっと思っていたので、それはすごく嬉しかったし、撮り終えて徳島に住んでいても「仕事をしたかったらできるかな」っていう可能性も感じました。

―――今も時々、東京などへ撮影に行かれているそうですね。

そうですね、月に1回ぐらいはありますね。1ヵ月~2ヵ月という映画やドラマの撮影の仕事は年に1回あるかどうかですが、基本的には深夜バスで行って深夜バスで帰る0泊2日みたいな仕事が多いです。

―――それは大変ですね。

そうでもないです。慣れですかね? 夜7時半まで家にいて、バスの中ではぐっすり眠って、翌朝6時には東京に着いているので、効率はいいですよ。

―――移住後、何か不便を感じることはありますか?

不便というほどでもないですが、移動に時間がかかるというのは仕方ないかな、と。ちょっと出かけるとなると車で20~30分は普通にかかりますから。今、海陽町のリブル(カキ養殖場)で働いているんですが、片道30㎞を40分ぐらいかけて通勤しています。往復60㎞ですから、冷静に考えるとすごいですよね。

―――リブルさんへは、どなたかの紹介で?

インターネットで探して、応募しました。この土地ならではの仕事がしたいなと思って。

―――どんなことをされているんですか?

カキの養殖をしています。リブルは筏に吊す方法ではなく、カキをバスケット(籠)に入れて育てています。バスケットに入れているので、波でコロコロ揺られ、丸くてかわいい形のカキができるのが特徴です。個体によって生育はまちまちなので、大きさを揃えてまた海へ戻し、既定のサイズになったら出荷するなど、年間を通じていろいろな作業があります。

―――今、移住後にしたかった暮らしは、叶っていますか?

移住したら庭で焚火をするという夢があったんですが、町中の家に住んでいるので、それはしていません。でもこの家に決めて良かったです。東京にいたときは今の4分の1くらいの広さだったので、すべてのものを整理整頓して収納もしっかりしないと、生活スペースを確保するのも大変だったんですが、今はゆとりがあっていいです。

―――移住を検討されている方にアドバイスをお願いします。

元々住んでいたところとの関係性を完全に立ち切らなくてもいいかな、と思いますね。離れても移住後、何かで繋がる可能性もあるので。

それから理想像を追求しすぎないこと。理想に向かっていろいろ考えたり、家を選んだりすると思いますが、現実と折り合わないこともいっぱいあるので、許容の幅をみておくのも大事かなと思います。あんまり完璧を求めすぎない方が結果的にうまくいくかな、と移住してみて思いました。

―――貴重なお時間、ありがとうございました。

 

■PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~

2024年製作/122分
配給:ハピネットファントム・スタジオ

公式サイト:https://happinet-phantom.com/play/