武田彰仁さん
特定非営利活動法人(NPO)美郷宝さがし探検隊
取材年月:2016年5月
「にほんの里100選」にも選ばれた「高開の石積み」や天然記念物である「美郷のホタルおよびその生息地」など、多くの魅力を持つ吉野川市美郷。ここで移住者支援を行っているのが特定非営利活動法人(NPO)美郷宝さがし探検隊です。
美郷のための活動に「移住」が加わって。
--まず、武田さんから吉野川市がどのような地域なのか、簡単に説明をお願いします。
武田さん:吉野川市は徳島県の北東部に位置しています。2004年に鴨島町・川島町・山川町・美郷村の4町村が合併して生まれました。ですから、一言で「吉野川市」と言っても、まだまだ新しいまちでもあることから、それぞれの地域ごとにかなり個性は異なります。たとえば、特定非営利活動法人(NPO)美郷宝さがし探検隊の本拠地にもなっている「美郷ほたる館」は旧美郷村にある施設です。私たちはここで地域のためのさまざまな活動を行っています。
--武田さんが館長を務めていらっしゃる「美郷ほたる館」について教えてください。
武田さん:もともと美郷は昔からホタルの多い地域として知られていましたが、1970年に全体が「美郷のホタルおよびその生息地」として国の天然記念物に指定されたんです。ここにはゲンジボタルやヘイケボタルをはじめ、ヒメボタルやオバボタル、オオマドボタルという5種類が生息しており、その素晴らしさを知ってもらうための施設として生まれたのが「美郷ほたる館」。特定非営利活動法人(NPO)美郷宝さがし探検隊は5年前に指定管理者となったため、それからはここを拠点として、美郷地区への移住に関する窓口業務も行うようになりました。
--美郷宝さがし探検隊の活動に移住支援が加わるようになったということでしょうか。
武田さん:そうなんです。1998年に結成され、2010年に特定非営利活動法人(NPO)となった美郷宝さがし探検隊の本来の目的は、美郷地区の過疎化や高齢化によって失われつつある文化などを調査し、保存活動をすると同時に伝統文化や文化資源を用いて活性化することでした。その一環として集落再生事業である『美郷移住支援プロジェクト』に関わるようになったんです。いつのまにか、美郷地区の「総合案内所」のような存在になりましたね(笑)。
「美郷」に興味を持つ人は確かに増えてきた。
--地域の魅力を掘り起こすための活動には、どんなものがあるのでしょうか。
武田さん:春は梅とシバザクラ、夏はホタル、秋は紅葉と梅酒まつり、冬は高開の石積みのライトアップと、美郷地区は四季を通じてさまざまな表情を見せてくれる土地です。そのほかにも、飯ごう炊飯やイカダ体験、流しそうめんといった川遊び、吉野川市の無形文化財である“美郷廻り踊り”などの企画や調査などもしています。こうした「地域の財産」は、ずっと私たちの身近にあったものですが、それが貴重なものだと知ることができたのは、外から来た人々の目があってこそ。大学の先生方の調査だったり、Uターンされた方などの言葉から、すぐ側にある「宝物」を探し出し、それを未来へ向けて守り育てていくことが大切だと考えています。
--移住者の受け入れに関して行っている具体的な支援内容について教えてください。
武田さん:美郷地区の集落再生事業検討会などでいろいろと話し合ったり、移住者の方を受け入れることができる空き家を探したりといったことをしています。移住を希望される方から連絡があれば、質問に答えるだけではなく、相談に乗ったり、美郷地区を案内する場合もあります。今年で30回を迎えた『美郷ほたるまつり』や8回目となる『美郷梅酒まつり』のおかげで、この土地を訪れる方も随分と増えました。ここ最近の「移住したい」という相談は、京阪神の30代から40代のご家族、そして、60代以上のリタイアされた方が多いという印象があります。
--UターンやIターンの方も含めて、実際に移住される方は増えているのでしょうか。
武田さん:本当に少しずつではありますが、美郷に興味を持ってくれる方、そして、移住される方は増えてきていると思います。しかし、ここへ移住するには幾つかのハードルがあるのも事実なんですよ。第一に住むところを見つけるのが難しい。確かに空き家はありますが、長年にわたって放置されていた住宅も多く、即入居というわけにはいきません。第二に仕事がない。人口が少ないということは勤め先も少ないということなんですよ。手に職がある方であれば大丈夫かもしれませんが、美郷で就職先を探すのはまず不可能。正直に言えば、こうした厳しい条件があるため、なかなか積極的に移住者を誘致していくわけにはいかないのが現状です。
何度も足を運び、地域の人々と話をしよう。
--全国から移住者を迎えるためには、今後も解決すべき課題があるということですね。
武田さん:そういうことです。そこには行政のバックアップが欠かせないんですよ。本気で移住者を受け入れていくのであれば、美郷だけではなく、吉野川市のあちらこちらを見て回ってもらうための拠点として、安価に長期滞在ができる体験施設のようなものが必要だと思います。それから、企業を誘致してサテライトオフィスをつくってもらうのも、雇用問題の解決や地域の活性化につながるのではないでしょうか。こうした取り組みを進めていただきながら、民間と連携すれば、もっと子供たちが増えて、活気のある地域が蘇るのではないかと考えています。
--最後に徳島県への移住を考えている人へのメッセージをお願いします。
武田さん:美郷を含む吉野川市にはさまざまな「宝物」があります。こちらへ移住されるということは、その「宝物」をともに守り育てるということ。移住は旅行ではありません。その場所に根を張り、ずっと暮らしていくわけですから、自分にとってふさわしい場所かどうかを見極める時間が必要だと思います。何度も足を運び、地域の人と話をしてみてください。そこで「やっていくことができる」と感じられたら、きっと大丈夫でしょう。春夏秋冬、美しい四季折々の風物に囲まれた「美郷ほたる館」で、あなたの訪れをお待ちしています。