髙島悠佑さん
出身地:大阪府
移住年:2005年
現住所:徳島市
職業:会社員
取材年月:2016年2月
徳島の阿波おどりを代表する有名連の一つ「天水連」で鳴り物を担当する髙島悠佑さん。大阪で生まれ育った彼が徳島市へ移住を決めたのは、ほかならぬ阿波おどりがきっかけでした。現在の生活はどのようなものなのでしょう。
大阪で徳島の阿波おどりの虜になった小学生。
--髙島さんは「阿波おどり」が移住のきっかけになった方だとお伺いしました。
髙島さん:僕自身は大阪府の豊中市で生まれ育ったんですが、両親は徳島県の阿南市と徳島市の出身なんです。母の実家である徳島市へはよく遊びに来ていたものの、小さい頃は本場の阿波踊りを一度も知らなくて。当時は明石海峡大橋もまだなく、交通アクセスが不便だったこともあり、混雑するお盆をわざわざ外して帰省していたんですよ(笑)。初めて徳島市の阿波おどりを体験したときは、とにかく圧倒されましたね。
--それは意外ですね。阿波おどりを始めたのはいつ頃のことだったのでしょうか。
髙島さん:小学6年生の頃だったと思います。大阪天水連の阿波おどり講座に参加したときにお菓子を貰ったんですよ(笑)。そのまま面白そうだったので入連することを決めたんです。当時はまだ大阪天水連も結成間もなくて、それほどメンバーが多くなかったこともあり、しばらくした頃に連長から「鳴り物をやってみないか?」と誘われて。それからは踊り手ではなく、笛や太鼓、鉦といった鳴り物全般を担当していくようになりました。
--大阪天水連の鳴り物担当として阿波おどりの世界へ夢中になっていったんですね。
髙島さん:そうですね。ある程度できるようになってからは、お盆に行われる徳島市の阿波おどりで、本家筋の天水連でも鳴り物をさせてもらえるようになりました。やっぱり本場である徳島の夏は違いますよね。街全体がガラリと変わるというか、まるで魔法にかかったみたいになるじゃないですか(笑)。本気で阿波おどりをやりたいという思いが募るにつれ、徳島で暮らしてみたいという気持ちも強くなって。それで徳島大学に進学し、天水連へ入連することにしたんですよ。
一年中、阿波おどりが中心になる暮らしとは?
--「阿波おどりをするために徳島市へ移住した」と言ってもいいわけですよね。
髙島さん:はい(笑)。就職先も徳島で探しましたし、大阪へ戻ろうという気はなかったですね。もう移住して10年が経ちましたが、徳島市にやってきて本当に良かったと思っています。阿波おどりの鳴り物の魅力は「一体感」を創り出していくこと。いかに踊り手に気持よく踊ってもらうか、そして、いかに観客を酔わせられるか。それこそが自分の中でのポイントになっています。理系のせいか、突き詰めていくことが好きなんですよね。どうしたらもっと心地よい音色になるか、観客を酔わせられるか、常にその原因を探っていくようにしています。
--阿波おどりが中心にある髙島さんの暮らしとはどのようなものなのでしょうか。
髙島さん:お正月が明けると、すぐに毎年4月に徳島市の藍場浜公園で行われる『はな・はる・フェスタ』のための準備が始まります。それが終わったら、もうゴールデンウィークですから、いよいよお盆の8月12日から15日までの4日間のための練習がスタート。11月には『秋の阿波おどり』もありますし、ほかにも、ここ阿波おどり会館の公演など、年間を通じて数多くの出演依頼があるので、一年中ずっと阿波おどりから離れることはありません(笑)。基本的にはどんなに仕事が忙しくても練習には参加するようにしています。そういう積み重ねが大切なんです。それでも、お盆の初日を迎えたときには「残り3日もある」と思うのに、あっという間に過ぎていってしまうんですよ。やっぱり阿波おどりに夢中になっているからですかね(笑)。
--徳島市へ移住して天水連に入連した後は生活が一変したといえそうですね。
髙島さん:阿波おどりをしていたからこそ、いろいろな人に出会うことができましたし、さまざまな場所へ行くことができたのは有り難い経験ですね。韓国や中国、フランスにも公演で行きましたが、海外の人々にも徳島の阿波おどりは十分に通用する立派なエンターテインメントだと思いました。こうした経験ができるのも阿波おどりのおかげです。もしも、ずっと大阪で暮らしていたら、今の自分の人生とはまったく違う生き方になっていたんでしょうね。
本場の阿波おどりには「人を呼ぶ力」がある。
--そんな髙島さんから見て、徳島市という街にはどんな印象がありますか。
髙島さん:徳島県の中では一番の都会ですから、一通り何でもある街だとは思います。とはいえ、公共交通機関のインフラは大都市圏とは比べ物にならないのは残念なところかもしれません。たとえば、大阪だったら電車やバスで移動の時間が読みやすいんですが、徳島では車で移動するのが基本になります。通勤ラッシュの時間帯に巻き込まれたりすると大変ですね。それでも、魚介類や野菜は新鮮で美味しいものが手に入りますし、何よりこの街には本物の阿波おどりがあります。個人的にはそれだけで満足ですね(笑)。
--これから阿波おどりの世界でやっていきたいことがあれば、教えてください。
髙島さん:阿波おどりをやっている人の中には県外の出身者が何人もいます。いろいろな連で活躍する同年代の人たちで集まって、もっとコミュニケーションを取っていきたいですね。お盆の時期ともなれば、有り難いことに県外から友人たちが何人も阿波おどりを見に来てくれるんですよ。そして、徳島市の阿波おどりを「また見に来るよ」と声をかけてくれるのは本当に嬉しい。それだけ自分たちがしていることには「人を呼ぶ力」があるわけですから、これからも技を磨いていかなければと思いますね。それが誰かの移住のきっかけになるかもしれませんし、人と人とのつながりを生んでいくはず。一度、ぜひ本場の阿波おどりを体験してほしいですね。