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仕事徳島で輝く女性美馬市

書店、ゲストハウス、会計。小さななりわいを組み合わせて、暮らしたい場所で暮らす(移住者インタビュー)

2025.02.13

泊まれる本屋「まるとしかく」店主
会計コンサルティング
内田未来さん

白壁の商家が軒を連ねる、美馬市脇町の「うだつの町並み」から車で10分足らず。のどかな田園風景の中、細い路地の先に一軒の古民家が佇みます。

こちらは、神奈川県から美馬市に移り住んだ内田さんが営む「泊まれる本屋 まるとしかく」。築100年以上の古民家をリノベーションして生まれた、書店とゲストハウスを兼ね備える空間です。

大学時代にアメリカへ留学し、アカウンティング(企業会計)を学んだ内田さん。そのまま27歳まで現地で勤め、帰国後は東京の法律事務所やベンチャー企業で経験を積みました。

東京で働きながら、ぼんやりと抱いていたのが、都市と地方の分断への違和感でした。「都市での生活は"消費"がほとんど。ずっと都会で暮らしてきた私は、消費の手前で行われている生産や流通のことを何も知らないし、モノを手に入れるときに『お金を出して買う』以外の手段を持っていない。このままの自分でいいのか?という葛藤がありました」。

そんな想いを抱えながら、農山漁村の仕事を学ぶプログラムを受講。フィールドワークで全国各地を訪ね、日本の地方が抱える課題を目の当たりにして、自分にできることを考えはじめます。

「神奈川の自宅でリモートワークをする毎日では、何かに寄与している実感がほとんどなくて。もっと『手触り感』があることをしたいな、と思っていました。でも、これまで手触り感とはあまりにもかけ離れた生活を送っていたので、具体的なことがすぐには思いつかなくて。まずは地方の事業者さんを会計の立場でサポートしよう、と独立したんです」。

生まれ育った神奈川県に拠点を置きながら、クライアントがいる岩手と島根を行き来する生活をスタート。各地の事業者の労務や財務を幅広く担いながら、引き続き地方とのかかわり方を模索していました。

転機は2021年。現在の「まるとしかく」の場所でゲストハウスを開こうとしていた人が、計画の引き継ぎ手を探していることをインターネット上で知ります。現地を初めて訪れて、庭先から見えた山の景色に一目惚れ。「この景色を毎日見られたら幸せだろうな」と、事業を引き継ぐことを決めました。

2022年、愛猫のサニちゃんとともに美馬市へ移住。当初はゲストハウスだけを営むつもりでしたが、「特色のある宿にしよう」と書店を併設することに。地元・脇町高校の生徒たちと一緒に準備を進め、翌年に「泊まれる本屋 まるとしかく」をオープンしました。

今年で開業3年目に突入。宿で国内外のゲストを迎えながら、書店では県外から出版社や著者を招いてトークイベントを行ったり、自身も各地のブックイベントに出店したりと、活動の幅を着々と広げています。

ゲストハウス、書店、会計。内田さんは現在、これら3つの事業で生計を立てています。

「小さななりわいをいくつか組み合わせることで、それぞれの欠点を補い合えるんです。たとえば、ゲストハウスは季節によって繁閑があるけれど、会計は年間を通して需要が安定しているから、収入の波を抑えられる。でも、会計はわりと裏方仕事で、自分らしさを活かせる場面はどうしても少ないので、そこは書店で発揮する。そうやってタイプが違うなりわいの組み合わせを考えれば、住みたい場所で理想の暮らしができるんじゃないかな、と思っています」。

初めての本格的な地方暮らしは「スローライフを思い描いていたのですが……排水管の修繕や草刈りなど、想像以上にやることが多くて忙しい」と少し苦笑い。建物だけでなく、敷地内の庭や畑、暮らしているエリアまで、目を配る範囲も広いといいます。けれど、それこそがずっと求めていた"手触り感"。「不便だけど、それが逆にいい。ちゃんと生きている感じがするんです」。

【おすすめスポット】
徳島市の「阿波十郎兵衛屋敷」。阿波人形浄瑠璃の演目が素晴らしいのはもちろん、スタッフさんの「伝統を残したい」という熱意にも魅了されます。石井町と上板町の間にある「吉野川第十堰」もお気に入り。住民投票で可動堰建設が撤回された、というストーリーも含めて、ずっと大切にしたい風景です。

【メッセージ、アドバイス】
とにかく動いてみること! 気になる地域を見つけたらどんどん足を運んで、実際の空気を感じ取るのがおすすめです。最後は自分自身の感覚を信じて、素直に「いい!」と思った場所に住むのが一番だと思います。

【1日のスケジュール】