ゆずりは保育園の取材を終えて、「もうちょっと話を聞きたい!」「こんなことも聞いて欲しい」というアンバサダーの声に応えて、『ゆずりは保育園』の代表 太田恵理子さんに追加でお話を伺いました。取材に行った松林永和さんに加え、当日参加できなかったけれど、障害者との関わりに興味があるという野田万由さんも加わり、『ゆずりは保育園』の取り組みについてインタビュー形式で紹介します。
★太田さんが『ゆずりは保育園』を作ろうとおもったきっかけについてはコチラ!
「水頭症の息子と共に。お子様と家族が笑顔になれる療育施設を!」
https://readyfor.jp/projects/yuzu-reha
『ゆずりは保育園』のことをちゃんと知ってもらいたいから、
自分たちで丁寧に情報発信する
野田さん:徳島大学の歯学部歯学科4年生の野田万由です。将来、障害のある方と関わる活動や仕事をしたいと思っているので、お話聞かせていただけて、すごく嬉しいです。よろしくお願いいたします。
太田さん:歯学部歯学科ということは、将来、歯医者さんになるんですか?
野田さん:そうです。口腔外科とか小児科みたいに障害者歯科という科があって、それに興味があります。
太田さん:なるほど。香川県にありますね、スペシャルニーズ専門の歯医者さんが。よろしくお願いします。
野田さん:では早速質問させていただきます。障害のあるお子さんの親御さんに対するケアは、どうされていますか?何か特別なことをされていたりしますか? (面談の部分、カットでもいいかなと思って消しました)
太田さん:今までは月に一回、第3土曜日に保護者と一緒に登園する「おやこ通園日」というのを設けていました。お子さんの普段の様子を見てもらえたら・・・ということ以外に、保護者同士の横のつながりを作ってもらえたらと思って。障害児の親御さんは特に、同じ立場の方と話したいと思っていらっしゃるので、その思いに応えたいなと。おやこ通園日がそのきっかけになるはずだったんですが、今、コロナでできてなくて。
その代わりに月に2回zoomの参観日っていうのをしてるんですよ。zoomで子どもたちが日中どんなふうに保育園で過ごしてるか、お家で見てもらう取り組みをしています。
朝の会もzoomで配信するんですけど、例えば、名前を呼ばれて「はーい」と返事ができなかった子が、一ヵ月後には名前を呼ばれたら「はーい」と手を挙げて返事ができるようになってるとか、そういう成長も感じてもらえるので喜ばれています。
松林さん:見学に行かせていただいた後、SNSも見ていますが、あれは太田さんご自身が発信をされているんですか?保育園の様子以外にもいろいろありますが。
太田さん:基本はスタッフが発信していて、私はあんまり発信はしてないですね。日中の支援の様子は現場スタッフが書いてくれることが多いですが、管理栄養士さんも毎日給食をアップしてくれていますし、在宅ワークで作業する広報担当のスタッフが投稿することもあります。
松林さん:発信は保護者向けにされているんですか?
太田さん:保護者さん向けでもあるし、入園を検討している方や『ゆずりは』で働きたいと思ってくれる人をできるだけたくさん増やしたいと思っているので、できるだけオープンにいろいろなことを見てもらえるようにしています。それともうひとつ、SNSの発信はリスクヘッジも兼ねています。SNSはいい面も悪い面も両方ありますよね。仮にネガティブな情報や変な噂が流れたとしても、自分たちでしっかり情報発信していれば、その情報の真偽ははっきりするし、問題ないかなと感じています。
保育士、理学療法士、作業療法士などプロが連携して、
一人ひとりにあったプログラムを提供
野田さん:障害のある子の知能や学力を伸ばすために、どのようにされていますか?
太田さん:それはぜひ現場の先生たちに聞いて欲しいかも。基本は保育士や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の人たちがプログラムを考えてやってくれていて、集団の良さを活かしつつ個別のアプローチにも注力しています。
例えばこの前、うちの息子が保育士の先生に鉛筆の持ち方を教えてもらっていたんだけど、鉛筆の“3本持ち”がまだ身に付いてなくて。どうしてもグーで握った感じで持ってしまうのを保育士の先生から作業療法士の先生にバトンタッチして「3本で持つための訓練をしようか」という話になっています。その子の発達に応じて、次にどういうプロセスが必要なのか、先生同士で考えてやってくれています。
訓練といっても、子どもが楽しいと思うものの中に、何かしら発達へのアプローチが必ず隠されているので、先生たちが考えるプログラムは、いつもめちゃくちゃ面白いなと思っています。
松林さん: 『ゆずりは保育園』に通ってる子の中にはリハビリを受けている子もいると思うんですけど、『ゆずりは保育園』に来る前はどういったところに通ってたんですかね?
太田さん:ゆずりはや他の療育施設に通っていたり、病院などでも訓練できるので、そこに通っている方が多かったかな。
「こんなのが欲しい!」という思いが原動力
重症児支援のためにも医療法人を目指す!?
松林さん:保育園とリハビリが一緒になっている場所は他にあるんですか?中四国エリアくらいの範囲だとありますか?
太田さん:調べたけど見つからなかった。保育園×児童発達支援て、多分全国に10件あるかないかぐらい。中でも、同じ建物内に併設しているパターンは特に珍しいと思います。
松林さん:ということはロールモデルみたいなのはなくて、やってるんですね。
太田さん:そう!完全に自分が「こんなのが欲しい」っていうのが原動力だから、それを叶えたいなと思ったのが出発点。その理想を叶えるために徳島市に交渉するにあたって、前例を探したけど、徳島にはそういうところがなくて。「前例がない」ということは、すごく大変だった。児童発達施設と保育園の間の扉をつけるとか、入り口を別で作るなど、細かい条件付きで何とかクリアできたけど、そこに至るまではかなり大変だったので、これからは自分がそういう前例になっていけたらいいなと思っています。
野田さん:お金の面で質問をしたいんですけど、建物代など何にお金がかかるものなんですか?
太田さん:保育園×児童発達支援っていうこの建物に関しては、土地も全部買ってるから土地は7000万円、建物は1億3500万円ぐらいかかっています。
最初は賃貸を考えてたから、借入の額も5000万円くらいを予定してたけど、それだと徳島市の認可保育園の条件に合わないと分かって。徳島市の認可保育園の条件はすごく厳しくて、財政状況が安定してないと認可してくれないんです。永続的に保育園があり続けられるっていうのが前提条件で、土地を借りていて、もし「返してくれ」と言われたときにトラブルの元だから、そのリスクを回避するためにも土地を買う必要があって、想定以上にお金がかかりました。
野田さん:その費用を稼いでいかないといけないと思うんですが、健常と障害の子とでは保育費に差があったりするんですか?
太田さん:保育料に関しては、まったく差がなくて、障害の有無に関わらず入ってくる金額は一緒です。1人でも10人でも障害児のお子さんを受け入れて加算される金額は一律で月に約5万円。なので一般的に障害児をたくさん受け入れれば受け入れるほど、すごく大変です。
でも、うちはお金じゃなく本当に「ケアが必要で、困っている保護者さんやお子さんの力になりたい」と思っているスタッフが揃っているから、当初は障害児専門の保育園にしたかったくらい。そこでこの話を徳島市にしたら、「専門というのは認可保育園では無理です」と言われて。徳島市の認可保育園にする以上は、「どんなお子さんでも入れる保育園でないと認可は出せません」と。確かにおっしゃる通りだなと思い、そこで“障害児支援に特化した保育園”って打ち出していきますということになりました。
松林さん:今、『ゆずりは保育園』では健常者と障害者のお子さんが半々くらいでしたよね?
太田さん:そうですね。健常のお子さんと障害のあるお子さんとがミックスして過ごすことはすごくいいなと感じています。健常のお子さんが、日常的に発達がゆっくりなお子さんや医療的ケアを必要としているお子さんたちと普段から関わることで、こういう環境が当たり前になっていて。こうした幼少期の体験が偏見のない豊かな心を育むんじゃないかと、10年先を楽しみにしています。はじめからこの環境を想定していたわけじゃないけど、結果、障害児専門ではなく、ミックスの環境で良かったと思ってます。
松林さん:医療的ケア児の受け入れもされていますか?
太田さん:保育園の方では、まだ受け入れができてないんですよ。医療的ケアが必要だったり、重症心身障害児のお子さんは『ゆずりはplus(プラス)』という保育園に併設してる事業所での受け入れになっていて、4~6時間ほどの預かり時間となっており、保育ほどの時間はまだみれないというのが現状です。
ただ3年後には、保育の方でも受けられるようにしたいという目標はあって、そのためには医療との連携が一番大事になってくるので、お医者さんが出来るだけ長時間いてくれる環境を作りたいと思ってます。そのため最低でも週1回、毎週来てくれる先生を見つけたいと思っていて、理想をいえば自分のところで医療法人を作りたい。医療法人ができたら本当に理想の施設が出来上がるので、そうなったら野田さんは歯科医師さんで(笑)。
野田さん:その際はぜひお願いします(笑)
★たくさんお話聞かせていただきまして、ありがとうございました。
取材記事はこちら↓