川久保貴美子さん
出身地:小松島市
移住年:2002年
現住所:北島町
職業:服飾クリエイター
取材年月:2016年2月
北島町発の有名キャラクターといえば“ししゃもねこ”。その生みの親である川久保貴美子さんは大阪からUターンしてきた後、縫製工場での勤務を経て服飾クリエイターとして独立。徳島クリエーターズマーケットの立ち上げなど、北島町で精力的に活動しています。
「徳島は何もないところ」と思っていました。
--川久保さんはUターンで大阪から戻ってこられたんですよね。
川久保さん:そうなんです。小松島市で生まれ、北島町で育ったんですが、東京にある短大へ進学してからも卒業後は徳島には戻らず、県外である大阪で就職することを選びました。そこで結婚して子供も生まれたので、しばらくは大阪で暮らしていたんですよ。実は子供の頃の私は「徳島は何もない場所」と思っていたため、とにかく県外へ出たいと考えていて…。ものづくりや絵を描くことが好きだったため、短大では日本画と陶芸を専攻して、いろいろな事柄を学びました。
--徳島へ帰ってくるつもりはなかったということでしょうか。
川久保さん:その予定はなかったですね。とはいえ、ずっと東京で暮らすのも「自分には合わないな」と思っていて。言葉も違いますし、何だか生活のペースも速すぎる気がしたんです。大阪を選んだのは東京よりも徳島へ近いこともありましたし、言葉が徳島と似ている部分もあったから(笑)。求人情報誌をつくる会社に就職したんですが、希望していた企画や制作はではなく、営業に配属されることになってしまって。なかなか上手くいかず、随分と辛い思いもしましたが、今から振り返ってみれば、このときの経験も良い勉強になったような気がします。
--ものづくりを本格的に再開されたのはいつ頃のことですか。
川久保さん:専業主婦になってからですね。結婚を機に退職して娘が生まれてから自分で子供服をつくるようになりました。それを仲の良い友人たちの間に見せたところ、有り難いことに周囲の評判が良く「ほしい!」と思ってくれる人が増えていったんです。そこで少しずつ地元のフリーマーケットに出すようになったり、自宅の一部を開放して子供服のショップにするようになって。大阪のデパートの催事場に出品するくらい人気が出たんですよ。もともと母が洋裁の上手な人だったので、一通りのつくり方は結婚前に教わっていたんですが、つくればつくるほどできることが増えていきますから、どんどん洋服づくりが楽しくなっていきました。
--北島町で暮らそうと思ったきっかけを教えてください。
川久保さん:いろいろな事情があって離婚を決意したとき、やっぱり心身ともに疲れていたこともあり、初めて北島町へ「帰ろうかな」と思ったんです。地元の友人にも会いたかったし、自分が生まれ育った町で、これから子供を育てていきたいという気持ちも湧き上がってきました。久しぶりに戻った北島町は、変わっていない懐かしい部分もあり、お店が増えて発展している部分もあり…。心機一転、新生活を始めるには良い町なんじゃないかなと思いました。
作品の次に“売る場所”をつくりました。
--徳島に戻ってこられてからはどんな仕事をされていたんですか。
川久保さん:昼は縫製工場でミシン工として働き、夜はオリジナルの子供服や雑貨をつくる日々でしたね。決して生活は楽ではありませんでしたが、このときの毎日が今の自分の基礎になっていると思います。一流ブランドの服づくりって、趣味の服づくりと全然違うんですよ。極端な話、1ミリ違うだけでも怒られる世界なんです。それにできるだけ早く、丁寧に、たくさんつくらなければならない。ものづくりの厳しさを身をもって体験できたのは有り難かったですね。
--経験を積んでから服飾クリエイターとして独立されたのですね。
川久保さん:そうですね。大阪の専門学校でバッグのつくり方を学んだり、帽子職人の方に帽子のつくり方を教わったため、つくる雑貨の幅も以前とは比べ物にならないくらい広がっていったんです。年に数回、自宅ショップを開催したり、2004年頃からはウェブサイトを開設したおかげで、雑誌などにも取り上げられるようになり、作家として独り立ちを決心しました。最初は本当にやっていけるだろうかという怖さもありましたが、自分のやりたいことをするために徳島へ戻ってきたわけですから。そこは妥協せずにチャレンジしてみようと思いました。
--北島町に「徳島クリエーターズマーケット」を立ち上げたのはその頃ですか。
川久保さん:「徳島クリエーターズマーケット」を立ち上げたのは、独立した翌年ですから2008年のことです。当時、ハンドメイドのクラフトを販売しようとしても、徳島にはリサイクル目的のフリーマーケットしかありませんでした。私は主に大阪の雑貨屋さんなどに自分の作品を出していたんですが、もっと地元でつくったものを販売できる場所がほしかったんです。そこで地元のクリエイター仲間に声をかけてスタートしたのが「徳島クリエーターズマーケット」。初回から出展者も来場者もびっくりするほど多く、こういうイベントを求めている人がたくさんいることに嬉しくなりました。今は春・夏・秋の年3回、北島町立創世ホールで開催していますが、相変わらず運営は私一人がやっているので、なかなか大変な毎日です(笑)。でも、県内外から雑貨好きの人たちが北島町に集まってくれるのが楽しくて止められないんですよね。
自分が住みたい土地は直感で選んでください。
--川久保さんといえば“ししゃもねこ”の生みの親として有名ですね。
川久保さん:本当に予想外の人気でびっくりしました!もともと“ししゃもねこ”は「ネコとサカナを合体させたらどうなるか?」という思いつきの落書きから生まれたんですよ(笑)。それをTwitterにアップしたところ、見ていただいた方から反響があったので、試しにフェルトでマスコットをつくってみたんです。Facebookにも掲載してみたら、想像以上に多くの方から「売ってください!」という声をいただいて。ネットショップを始めてみたら、もう“ししゃもねこ”以外のものをつくる暇がないほどの人気に。今ではおかげさまで多くの人から愛されるキャラクターとして、キーホルダーやノートなど、さまざまな商品に展開しています。
--“ししゃもねこ”が生まれてから北島町との関係も変わりましたか。
川久保さん:そうですね。2014年9月には北島町の徳島北警察署の交通安全イメージキャラクターになりました。2015年7月には北島町のPRやイメージアップのための「きたじまブランド商品」に認定。また、2015年8月からは北島町のふるさと納税返礼品にも“ししゃもねこ”のタンブラーと手づくりストラップが採用されているんですよ。私自身も北島町青少年健全育成講演会の講師をやらせていただいたり、地元のお菓子屋さんとコラボレーションしたり、銀行の支店で原画展を開催するなど、どんどん北島町との関係性が深くなっている気がします。
--最後に移住を考えている人へのメッセージをお願いします。
川久保さん:都会から移住してくると、北島町は田舎に感じるかもしれませんが、徳島では都会だといっていいところだと思います。映画館があるのも嬉しいポイントの一つ。いろいろなお店があるので、ものづくりの材料も手に入りやすいですね。その一方、車でちょっと走れば、山も海も川もある自然いっぱいの環境。私も煮詰まったときはよく海で気分転換したり(笑)。どうしても「移住」と聞くと、大それた決心が必要になる行為のように見えますが、直感で自分が住みたいところを選んでください。それこそが人生に後悔しないコツだと思います。