移住者インタビュー

Interview

Iターン30代サービス・飲食佐那河内村

地域全体が親戚みたいな村で暮らしています。

小松 円さん

出身地:高知県

移住年:2015年

現住所:佐那河内村

職業:自営業

取材年月:2015年11月

小さな一人娘と動物たちを連れて小松さんが移住したのは、徳島県唯一の村である佐那河内村。暮らしはじめる前から何度も足を運び、地域の人々と交流しながら住むところを見つけたという彼女は、かつて村の自転車屋さんだったという空き家で個性的な居酒屋を営んでいます。

自然を眺める度、豊かな気持ちになります。

--雰囲気のある素敵な建物ですが、この「22:28」という店名も気になりますね。

小松さん:娘が生まれた時間を店の名前にしたんです。いったい何のお店かわからないでしょう。それが狙いなんですよ(笑)。居酒屋としてスタートしたんですが、いろいろやりたいことがあるので、あえて「?」な感じにしています。ここは佐那河内村でたった一つの不動産屋さんにご紹介いただいた物件で、もともとは自転車屋さんだったんですよ。15年近く空き家だったらしいんですが、雰囲気のある佇まいに一目惚れでした。見に来た日に「ここへ住みます!」と宣言して(笑)。看板はステンドグラス作家の方にお願いしてつくってもらいました。

--佐那河内村を移住先に選んだ理由を教えてください。

小松さん:真剣に移住を考えるようになったきっかけは、近所のコンビニエンスストアに強盗が入ったことでした。都会のマンションで暮らしていくのが少し怖くなって、最初は高知県の田舎へ戻るか、沖縄県へ移住しようかと考えていたんです。子どものぜん息も気になっていたので、空気が綺麗なところがいいなという思いもありました。そんなとき、佐那河内村出身の方から「徳島で唯一の村がいいところだよ」という話を聞いて、とても興味が湧いたんです。

--初めて佐那河内村に訪れたときの印象はどんな感じでしたか。

小松さん:徳島市内からそれほど離れていないのに、こんなに自然がいっぱいの場所があったんだと驚きました。移住を決心してから何度も通っているうち、季節ごとに山や川もそれぞれ違う美しさを見せることにも気づいて「ここで暮らしていけたらいいな」と思ったんです。住みはじめてからもその印象は変わらないですね。山道で足を止めて景色を眺める度、とても豊かな気持ちになるんですよ。

移住前から地域の集まりに参加していました。

--これだけの家を探すのは大変ではありませんでしたか。

小松さん:簡単ではありませんでしたね。まず「空き家バンク」に登録したんですが、村役場の方からは「賃貸の物件は決して多いわけではない」と聞いたので、購入も視野に入れて探しはじめました。それこそ1週間ごとに佐那河内村へ足を運んで「いいところがあったら、すぐに教えてください!」と、しつこいくらいにお願いしていたんですよ。その甲斐あって、理想的な家を紹介してもらえたのは有り難かったですね。

--移住前から定期的に佐那河内村へ訪れるようにしていたんですか。

小松さん:そうなんです。佐那河内村には「常会」という地域の集まりがあって。月に一度、公民館や集会所で役場からの連絡事項を確認したり、地域の情報交換をするんですが、移住を決めたとき、不動産屋さんが「今から参加しておくとええよ」とアドバイスしてくれたんです。移住前から参加させてもらったおかげで、顔を覚えてもらうのは早かったんじゃないかと思います。家の改修が終わって引っ越してきたときには「やっと来たんか」と笑われました(笑)。

--佐那河内村で暮らしていくにあたって、仕事の面はどのように考えていたのでしょう。

小松さん:最初はカフェを考えていたんですよ。でも「村の人たちと仲良くなるにはお酒が一番」と聞いて居酒屋をやることにしたんです。オープンする前は不安もありましたが、ざっくばらんな雰囲気で気軽にお酒を飲む場所がなかったようで、いろいろな世代の方が来てくれるようになりました。同年代のグループもいますし、地域の話もリラックスした雰囲気で聞くことができますから、村の人たちとの心理的な距離は一気に縮まったような気がします。

誰もが助け合って暮らしていく場所だから。

--村の生活にはそろそろ慣れてきましたか。

小松さん:33種類のゴミの分別も苦労せずにできるようになってきましたし、少しずつ村の一員になってきたのかな。10月には村民体育祭があったんですが、子どもからお年寄りまでみんな参加するんですよ。同じチームの人とは自然と仲良くなりますし、20代や30代の若者も意外と多いんだなということもわかりました。この間もお年寄りと若者がゲートボールで対抗戦をやっていて、おじいちゃんからの野次に金髪のお兄ちゃんが「うるさーい!」と言い返しながらプレイしている光景を見ました(笑)。みんな真剣だし、手が空いている人が自然に子どもの世話もしてくれるんです。こうした協力関係は本当に佐那河内村のいいところだと思います。

--移住してきて一番変わったことは何ですか。

小松さん:大きく変わったのは娘ですね。消極的で人見知りな性格だったのに、ここに来てからは、自分から畑仕事中のおばちゃんのところへ走っていったり、びっくりするくらい積極的な子どもになりました(笑)。やっぱり小さな村ですから、地域全体が親戚みたいな感覚なんですよ。きちんと叱ってくれますし、みんなが自分の子どものように接してくれている気がします。よく走り回って遊ぶようになりましたし、身体も丈夫になりましたね。それから、一戸建ての家なので、大好きな動物たちをいっぱい飼うことができたのも大きな変化です。今はこの家に大型犬が2頭、ボランティアで保護している子を含めて猫が4匹、チャボが2羽いるんですよ。

--最後に移住を考えている方へのメッセージをお願いします。

小松さん:移住で失敗するとしたら、想像と現実との間にあるギャップが大きかった場合だと思うんです。そこを埋めるには、移住前に何度も通ってみるしかないのでは。実際にいろいろな地域の人と話してみて、お互いを知り合うところから始めてほしいですね。顔馴染みになれば地元のルールも見えてくるはずです。たぶん「景色が綺麗だから」みたいな理由だけでは、暮らしはじめてからのことを考えると厳しいはず。生活していく上で外から来た人を助けてくれるのは地元の人たちですから。いつかは私も頼られる存在になりたいですね。