神山町地域おこし協力隊を2019年3月に退任した北山歩美さん(千葉県四街道市出身)にお話を伺いました!(2025年12月取材)

Q1協力隊になる前は何をしていましたか?
中学生の頃に『ハリー・ポッター』に夢中になったことをきっかけに、海外の文化に興味を持つようになりました。大学では国際文化を学び、卒業後は「いつか海外で働きたい」という思いから東京の貿易物流会社に就職しました。在職中に東日本大震災を経験し、「死ぬかもしれない」と感じたことで、やりたいことに挑戦しようと決意しました。当時の会社では海外勤務の実現が難しかったため退職し、青年海外協力隊に応募してバングラデシュに派遣されました。現地では、地域の方が立ち上げたNGO(非政府組織)に配属され、村人の生活改善支援に取り組みました。
Q2なぜ神山町の地域おこし協力隊になったのですか?
バングラデシュでの活動は任期が2年と限られていたため、地域に関わっていても自分はあくまでよそ者であるというもどかしさを感じていました。一方で、活動には楽しさとやりがいも感じていたため、帰国後も地域に密着したコミュニティの中で働きたいと思うようになりました。任期を終えて日本に帰国しそんな仕事を探す中で、バングラデシュに一緒に派遣されたメンバーから「徳島県の神山町はまちづくりが面白く、地元の人も魅力的」と聞いたことを思い出しました。調べてみると地域おこし協力隊を募集しており、「農と食をつなげる」というミッションは、まさに自分が取り組みたいテーマでした。さらに神山町のホームページを見たとき、挑戦的で洗練された発信に強く心を動かされ、「ここなら本気で地域に関われるのではないか」と思い、応募しました。
Q3実際に神山町に移住して暮らしてみていかがですか?
面接で初めて神山町を訪れたとき、「ここだ」と直感しました。景色や空気感も含めて理想としていた場所で、ひとめぼれに近い感覚でした。実際に暮らしてみると、気がつけば玄関に野菜が置かれている、そんなおすそ分けの文化が自然に根付いており、とてもオープンな雰囲気で、人との距離感がちょうどいいのも魅力です。人とのつながりの中で、豊かさを感じながら暮らしています。
Q4どんな活動をしていましたか?
主な業務は、ふるさと納税の返礼品に同封するタブロイド新聞「里山みらい」の発行でした。紙面では、神山町唯一の阿波おどりの連「桜花連」や山師のおじいさん、川のほとりで暮らす方などを取材し、あまりメディアに載らない地域の日常や人の魅力を紹介しました。また、すだち農家の規格外のすだちを活用して東京のさまざまな飲食店と協力し、新しい「神山すだち」の食べ方を提案する「東京すだち遍路」や、神山ルビィ(梅干し)のPRにも関わりました。こうした活動を通して地域の魅力を発信する中で、旅先でのゲストハウス体験が私の原点であることに気づきました。ガイドブックには載っていない地域の魅力やおいしい食べ物をオーナーさんから教えてもらったり、居合わせたゲストと人生や価値観を語り合ったり、そんな時間が旅の醍醐味でした。その感動が忘れられず、旅人と地域をつなぐ場所をつくりたいと思い、3年目はゲストハウス開業に向けた準備に力を注ぎました。
Q5活動中に意識していたことは何ですか?
地域のコミュニティの一員として関わっていくことを念頭に置きながら活動していました。地域のイベントを積極的に手伝いながら住民の方と話し、少しずつ信頼関係を築いていきました。宿の場所が決まり引っ越してきた際には、顔なじみの方から「おまはんが来てくれたんえー」と声をかけてもらい、この土地の一員として受け入れてもらえたことを実感しました。
Q6退任後、現在はどんな活動をしていますか?
「神山くらしの宿 moja house」を営んでいます。宿のトレードマークとなっているアヒルとガチョウは、友人と取り組んでいるお米づくりにも関わる大切な存在です。アヒルは水をかき混ぜて泥を動かし雑草を抑えるだけでなく、さらに虫も食べてくれるため、自然の力を生かした米づくりに役立っています。ガチョウは田植え前の代かきの時期に活躍するほか、果樹園で除草をしてくれています。他にも、ほんの少しですが八朔やすだち、柚子を育てています。宿泊してくださった方と収穫を楽しみ、採れたての柑橘でポン酢やマーマレードを作ることもあります。神山の暮らしの延長線上にある体験を通して、この土地の空気や営みを共有できたらと思っています。
<神山くらしの宿 moja house>
<田んぼの水を掻くアヒル>
Q7これからやっていきたいことは何ですか?
これからは、宿により長く滞在していただけるような体験を増やしていきたいと考えています。最近はお遍路のお客さんも増えており、特にヨーロッパから来られる方が多いと感じています。中には二泊して、一日をリラックスデーにあてる方もいらっしゃいます。その一日が、ただ休むだけでなく、神山の自然や暮らし、人と出会う時間になるような過ごし方を提案できるよう、これから少しずつ体験の幅を広げていきたいと考えています。
Q8徳島県の魅力は何だと思いますか?
私にとって徳島の魅力は、まず何より「食」です。魚もお米も水も本当においしくて、すっかり胃袋をつかまれました。海も山もあり、自然の恵みがそのまま食卓につながっていると感じます。川がとてもきれいで、夏には大人も本気で川遊びをしている、そんな風景が、ごく当たり前の日常にあります。自然が特別なものではなく、暮らしのすぐそばにあることを実感します。そしてもう一つは、お遍路文化やお接待の風土です。訪れる人をあたたかく迎え入れるウェルカムな雰囲気があり、人のやさしさが文化として根づいているところも徳島の大きな魅力だと思います。

<北山さんが好きな場所 神山町江田集落にある北山さんがお米を育てる田んぼ>