代表 伊勢由花さん
NPO法人エランヴィタル
取材年月:2019年3月
全国屈指の光ブロードバンド環境による優れた情報通信網が整備されている徳島県。このことがフツーの主婦にとっても活躍のチャンスに繋がっています!子育てや介護のため、外で働くことはできない女性を中心に、ICTを活用した在宅ワークを行うNPO法人エランヴィタルを結成した代表の伊勢由花さん。限られた条件の中でもいきいきと働き、自分の可能性にチャレンジし続けています。「元始、女性は太陽であった」という平塚らいてうの言葉を彷彿させる、明るくたくましい彼女たちが取り組む新しい働き方について、代表の伊勢由花さんにお話を伺いました。
楽しみ、学び、成長したいと願う女性達が見つけたICTの活用法
―――“エランヴィタル”って聞き慣れない言葉ですが、何語ですか?
伊勢さん “エランヴィタル”とは、哲学者アンリ・ベルグソンが提唱した進化論の「生物は内的衝動によって成長・進化をする」という意味のフランス語です。女性が元々持っている能力、エネルギーに自分達で気付き、それを発揮することで成長し、社会全体が豊かになって欲しいとの思いから名付けました。
―――壮大なイメージですね!
伊勢さん 『NPO法人チルドリン』をご存じですか? 子育て時期にもっと「楽しみ、学び、納得し、安心したい」という母親達を支援する全国組織で、徳島にも『NPO法人チルドリン徳島』という支部があるんです。「ママまつり」というネイルやベビーマッサージ、ハンドメイド雑貨の販売など母親達の特技を活かして行うイベントの企画運営を通じて、活躍の場を提供し、徳島での活動を全国に発信しているんですが、私たちもそのメンバー。『チルドリン』で活動する中で、メンバーが抱える子育てや介護などそれぞれの事情に寄り添うためには、もう少しコンパクトなコミュニティが活動しやすいんじゃないかと思い、阿南市在住メンバーを中心に平成30年3月12日に新法人を立ち上げ、独立しました。
―――阿南市というエリアに特化したメンバー構成にすることで、地域に密着した活動ができますね。
伊勢さん まさにそれをやりたいと思って。『エランヴィタル』のロゴの3つの円には、3種類の意味があります。1つ目は、阿南の人・海・太陽。2つ目は、1人の女性が段々と成長していく姿。3つ目は、女性・地域のお店や企業・人の集まりを表すコミュニティです。
―――メンバーは何人くらいですか?
伊勢さん 正会員11名です。半数が阿南市在住の女性で、生まれも育ちも阿南市という人もいれば、県外から移住してきた人や転勤族の妻という人もいます。
―――どんな活動をしているんですか?
伊勢さん 子育てや介護などの理由で、「仕事をしたいけれど、外に働きに行けない」という人のために、ICTを活用した“テレワーク”という働き方があるんですが、テレワークを活用した代行業務やテレワークの啓発・推進のための養成講座も行っています。
在宅で代行業務を行うテレワークという働き方
―――“テレワーク”の「テレ」が「電話」をイメージするせいか、コールセンターと勘違いしている人もいますよね。
伊勢さん そうなんですか!? テレワークとは「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を意味します。あらかじめ定められた時間を定められた勤務場所(オフィス等)で勤務するこれまでの働き方に対して、テレワークはICTを活用することによって、働く時間と場所を働く人が自由に選択できるのが大きなメリット。子育てや介護をしながら在宅で仕事をする人を「テレワーカー」と呼びます。
―――テレワーカーの養成も行っているんですよね。
伊勢さん そうですね。在宅で働くために必要な知識や技術を身につけるための養成講座を行い、講座を修了した20名のテレワーカーも一緒に活動しています。
―――具体的にはどんな仕事をされているんでしょうか?
伊勢さん 時間や場所を選ばずに働けるテレワークには、パソコンを使う仕事が向いています。インターネット環境があれば、どこにいてもオフィスで働いているのと変わりなく仕事をすることができます。主に行っているのは企業や自治体の代行業務が中心です。
【業務の一例】
・講習資料電子データ化・html作成(紙資料をスキャンし電子データとして保存・閲覧できるようにまとめる)
・名刺の電子データ化
・Webサイトリニューアルにともなう文字や画像などのデータ移行(CMSというWebサイトを作成するためのサービスを利用してデータを新しいサイトへ移す)
・Excelデータ入力
・お店の取材・撮影・記事の執筆
・年賀状デザイン
・セミナー用のパワーポイント作成(セミナー講師用のパワーポイントを紙資料から作成)
伊勢さん 「ホームページをリニューアルしたいけど、どうしたらいいの?」とか、「年賀状を出さないといけないけど時間がないから、代わりに作ってもらえない?」などの相談もあります。困りごとの相談にのり、解決策のご提案をしています。
―――どこも人材不足ですから、資料作成やデータ入力など手伝って欲しいと思っている人は多いんじゃないでしょうか?
伊勢さん そういう方はぜひ、ご依頼ください(笑)。
テレワーカーになるには?
―――仕事の幅も広いですが、皆さん、前職でそういった仕事をされていたんでしょうか?
伊勢さん 私たちは全員、特別なスキルや経歴を持っているわけではなくて、共通しているのは家族の世話に奮闘し続けていることです。そうした日々の中で、ふと立ち止まり、「このままでいいのかな?」と自分自身に目を向けたとき、“私が私である時間”が必要なんだと気づいて。時間的な制約があり、外に働きに出ることはできなくても、社会と関わり、自分らしく生きる方法を探して巡り会ったのがテレワークです。同じような思いを抱えている人が働き方を考えるきっかけになったり、視野を広げるチャンスになればと願っています。
―――初心者でもテレワーカーになれるんでしょうか?
伊勢さん 在宅ワークというだけで、ほったらかしにするわけじゃないので大丈夫です。クライアントとテレワーカーの間にはテレワークコーディネーターがいて、テレワークコーディネーターはクライアントから相談を受けた業務の見積りを行い、作業手順を決め、テレワーカーに伝えます。また、品質を保つため、ワーカーの作業完了したものをコーディネーターがチェック・修正指示などを行い、納品しています。業務完了後も反省会を行って、少しずつスキルアップできるよう、サポートしています。
―――実際にテレワークをされている方の感想をお聞かせください。
伊勢さん テレワークのいいところは、働く時間と場所を選ぶことができるため、子供の急な病気や学校行事にも対応できることですね。子供のことで会社を休むのは後ろめたい気持ちになるものですが、テレワークだと自分でスケジュール管理ができるので、やり方次第で子育てを思い切り楽しむことができます。子育てだけでなく、自分が体調を崩したり、別の予定がある時は仕事の量を調整することもできます。
―――「パソコンが壊れた!」なんて、初歩的なトラブルはないんですか?
伊勢さん 今のところはないです(笑)。仮にそういう場合でも業務ごとにチームで作業しているので、トラブルがあったときや困った時は助け合って仕事を進めます。仕事場所は自宅だけではなく、コワーキングスペースで行うこともできるので、他のテレワーカーと一緒に作業するなど、スキルやアイデアを共有することもできます。
―――では、テレワーカーの方達が一番苦労するのは何でしょう?
伊勢さん 『エランヴィタル』の場合、テレワーカーの方には個人事業者となってもらい、個人と契約するというカタチで発注を行っています。そのため、自分自身が経営者になるので、クオリティの管理や納品など仕事はもちろん、確定申告なども含め、全部自分で行わなければならないことが大変だと思います。
―――仕事含め、経営者としての経験もゼロからスタートというわけですね。
伊勢さん 「できない」と思ってチャレンジしないでいると、成長につながりません。テレワークの仕事も多岐にわたるので、機会があれば色々なことに挑戦するといいんじゃないかと思います。「○時までには子供のお迎えに行かないといけないから、○時には仕事を終わらせよう」とか、洗濯と食事の準備を同時にして・・・と主婦業はマルチタスク。女性は元々複数のことを同時に行い、処理する能力に長けているので、ゲーム感覚でスケジュールを組み立てて、少々の負荷を逆に楽しんでいるという人が意外と多いように思います。
―――何か気をつけないといけないことはありますか?
伊勢さん テレワークは文字によるコミュニケーションがとても重要です。案件ごとのチームやクラウドソーシングサイトで顔をあわせることなくチャットなどでやりとりを行うケースが多いので、文字だけで伝える難しさに直面することがあります。目の前にいない相手だからこそ、精一杯の誠意をもって丁寧に仕事をすることが大切だといつも感じています。
女性目線が効いた総合ウェブサイト『makemake 阿南』
―――皆さんが手がけた仕事を、私達が見ることができるものはありますか?
伊勢さん 2018年12月に開設した徳島県南「阿南」の総合ウェブサイト『makemake 阿南(まけまけあなん)』(*対象エリア小松島市・阿南市・那賀町・美波町・牟岐町・海陽町)をぜひご覧ください。テレワーカーたちが取材し、記事を書くことで就労の機会も増え、徳島県南にある企業やお店のPRをすることで地域経済の活性化にもつなげ、阿南から徳島県全体を盛り上げたいとの強い思いで作りました。
―――「makemake阿南(まけまけあなん)」ですね。
伊勢さん 器にあふれるほど大盛りの状態をさす「まけまけいっぱい」という阿波弁と、ゼロから作っていく「make」をかけて、どんどん大きくなっていきたいという思いも込め名付けました。「阿」波(徳島県)の「南」、「阿南」には自然・街・食・歴史・文化・産業・人・・・など、数え切れないほどの素晴らしい魅力があります。地域活性化や地方創生に取り組む企業と連携し、阿南市の魅力を「まけまけいっぱい」に発信する情報ポータルサイト『make make阿南』は、阿南市で生活や子育てをしている女性ならではの目線でお伝えし、取材先の地域周辺情報や耳寄りなお知らせをプラスした「わたしのまけまけINFO」も併せてお届けします。阿南市に暮らしていてもあまり知られていないとっておきの情報はもちろん、移住を考える人や観光やビジネスで阿南市に来られた人に頼りにされるサイトに成長していけるよう努力し、県南エリアを盛り上げていきたいと考えています。
―――今後の活動について教えてください。
伊勢さん 私達は、在宅でも働けるテレワークという働き方を通じて、家庭の事情などで女性がやりたいことを我慢している現状を変えたいんです。女性ももっとやりたい事を貪欲に望んでいいと思っています。お母さんが楽しく元気にしている方が、家庭が明るくなるように、社会でも同じことが言えるのではないと思います。女性が元気なコミュニティが地域全体を明るく活性化してくれると思います。
―――確かにそうですね。
伊勢さん 在宅ワークを希望されて相談に来られる方の背景には、ご自身や家族の病気、障がい、DVなど事情は様々です。現在の環境、抱えている悩み、望んでいることは人ぞれぞれで、1つの方法ですべてが解決できるとは思っていません。一人で悩み、自分の能力や魅力に気づいていない人に、ポテンシャルを高め、発揮することで自分の望む生き方を見つけて欲しい。そのきっかけ作りのお手伝いができればと考えています。新しい法人を立ち上げて、まだ1年にも満たない未熟な団体ですが、メンバー全員、熱い思いを持って活動しています。『makemake阿南』を始め、地域の方々のご支援があって、私達の活動は成り立っていいます。感謝の気持ちを忘れず、「どんなことやってくれるの?」「お店の取材に来てほしいんだけど」といった要望にいつでもお応えできるよう、気軽に相談されるような団体として成長できればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
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※テレワークなどに関する問い合わせは特定非営利活動法人チルドリン徳島へお願いいたします。
https://child-rin-tokushima.com/