移住者インタビュー

Interview

Iターン40代事務・企画編集・クリエイター上勝町

自分たちの手で、未来を変えられる場所です。

仁木啓介さん

出身地:兵庫県

移住年:2012年

現住所:上勝町

職業:上勝開拓団 代表

取材年月:2016年2月

昨年に「上勝開拓団」を設立し、映像制作やイベント制作によって地元を盛り上げている仁木さん。東京の映像制作会社のディレクターだった彼が、この地への移住を決めた理由は、まちの人々との感動的な交流体験や、地方が秘める未来への可能性にありました。

テレビ番組の取材で上勝町へ。

--仁木さんと上勝町との出会いは、何がきっかけだったのでしょうか?

仁木さん:7年ほど前に、テレビ番組の取材で「NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー」の取材に訪れたのが最初でした。プロデューサーから「ゴミゼロを目指している面白い町が徳島にあるから行ってきて」と言われたんです。ゴミをゼロにするなんて無茶だろうと思っていたのですが、実際にこちらに来てみると、町民の皆さんが本当に真剣に取り組んでいて。スタッフと一緒に山奥の旅館に泊まったのですが、1階に集まっている住民たちが「お前たちも下に降りて来て一緒に酒を飲め」と言う。いつの間にか大宴会が始まっていました(笑)。

--どうして移住をされようと思ったのですか?

仁木さん:取材を通じて良い友達ができたので、撮影終了後も暇を見つけては上勝町に遊びに来ていたんです。僕の誘いで一緒に遊びに来ていた友人がこの町を気に入ってしまい「ちょっと住んでみる」って言い出して。役場で住める場所があるか聞いたら、町営住宅と山奥の古民家を紹介してくれました。何にも無い杉林の中を走って行くと月ヶ谷という集落があり、民家は空き家も含めて2軒だけ。でも囲炉裏やかまどがあって、すごく良い雰囲気だったので「今日からここで住んでもいいですか?」という話になって。

信じられないぐらい幸せな時間が流れた、あの日。

--それで、まず友人が住みはじめられたと。

仁木さん:そう。僕も泊まるところができたので、より気楽に上勝町に足を運べるようになりました。その後、NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの事務局長に「このまちで映像で残しておきたいものって何かありますか」という話をした時に「キミちゃん、フミちゃん」という有名な2人のおばあちゃんがいると。毎朝、杵と臼で作ったお餅を「いっきゅう茶屋」という地元の産直市で販売したり、移住してきたIターンの若者たちをかわいがったりしている元気な方でした。2月の寒い時期、二人の誕生会に友達が呼ばれていて、僕もビデオカメラを持って付いていったんです。小さな集会所に老若男女が集まり、二人が作った料理をみんなでワイワイ言いながら食べて。Iターンの若者たちは手作りカルタを二人にプレゼントして、カルタ大会が始まって。それが、僕にとっても信じられないぐらい幸せな時間だったんですよね。

--何が仁木さんを幸せな気持ちにさせたのでしょう?

仁木さん:仕事も年齢もみんなバラバラなんだけど、同じ地域に住んでいて「みんなでこの地域を守りたい」という気持ちが伝わってきたんです。しかも、その根本には「みんなで楽しくやっていこう」という気持ちがあった。正直で温かな住民たちの気持ちが滲み出ていたんです。その時に撮影した映像は、後に90分のドキュメンタリー映像となって全国放送されました。実は、この撮影の時に「町の人間として撮りたい」と思っていたので、住民票を上勝町に移していたんです。だから、僕が移住したのは、この時になりますね。

映像のチカラで地域の魅力を発信中。

--今は上勝町でどのような暮らしをされているのですか?

仁木さん:結局、先に友人が暮らしていた家が空いたので、そこに僕が住むようになったのですが、空いている時間は畑を耕したり、誰かの所でお手伝いをしたりしていました。上勝町で何かできることはないかと考えている時に、地元でシェアカフェをしていた方から「時間があるなら店長をやってみないか」と。そこで始めたのが金曜と土曜の夜限定の「Bar IRORI」です。地元の仲間たちと酒を酌み交わしながら。ライブをしたり、年に何度か音楽イベントを開催したりしています。

--昨年には「上勝開拓団」という会社を設立されましたが、どのような目的で作られたのでしょう?

仁木さん:基本的には映像・イベント制作会社で、映像の力で地域の魅力を発信するのが大きな柱です。上勝町を中心としながら、将来的には「地方から見た世界の魅力」を発信していけたらと考えています。最近では、葉っぱ(ツマモノ)のビジネスで有名な「株式会社いろどり」さんからもご依頼をいただき、国内外で商品をPRするための映像を作ったりしています。東京では、一個人が何かを劇的に変えるというのはたぶん難しい。逆に上勝町の人口は1700人足らずですが、その中の一人のチカラは大きいし、個々の影響力が見えやすいと思う。そこがまさに、地方の可能性と言えるのではないでしょうか。

--移住を考えている方々に向けて、メッセージをお願いします。

仁木さん:たぶん他のまちと違うのは「家や仕事があるから」という理由で移住してきている人は、ほとんどいないということです。ほとんどの人が、このまちの人や自然、暮らしの魅力を感じて移住してきています。すべて行政がお膳立てをしてくれるような場所ではないので、自分で「何とかしたい」という気持ちを持った人に来てもらいたいかな。まちの人たちとの関係がちゃんとできるようになれば、仕事も家も何とかなると思います。最近では移住者やUターンの方によって、お洒落なカフェやイタリア料理店もオープンするなど、20代の方が活躍するシーンも増えてきました。若い方にも安心して足を運んでほしいですね。興味があれば、僕がいる「庵ノ谷開拓村」や「Bar IRORI」にも、ぜひ遊びにきてくださいね。