移住者インタビュー

Interview

Uターン30代専門・その他徳島市

人が集う場をつくり、創造性を取り戻していきます。

河﨑 由記子さん

出身地:徳島市

移住年:2011年

現住所:徳島市

職業:料理家

取材年月:2016年2月

徳島市の中心部にある築140年もの古民家でマクロビオティックやローフードをベースにした菜食の料理教室やヴィーガンカフェなどを展開する河﨑由記子さん。便利なものが多い現代の暮らしの中で、自分の手を使った生活を見直すための活動を続けています。

「山の生活は向いていない」と気がつきました。

--県庁所在地でもある徳島市内に、こんな立派な古民家があるとは驚きました。

河﨑さん:ここはかつて祖父母が暮らしていた家なんですよ。正確な年数はちょっとわからないんですが、おおよそ築140年ほどの建物だと聞いています。もともと農業をやっていた家なので、庭を含めた敷地も広いですし、初めて訪れる方はよくびっくりされていますね(笑)。

--河﨑さんご自身はこの大きな家で生まれ育ったわけではないんですね。

河﨑さん:私自身の生家はこの近所だったので、高校を卒業するまでは徳島市で過ごしていました。それからアメリカの大学へ留学。卒業して日本へ戻ってからは、しばらく大阪で働きながら暮らしていました。当時はマクロビオティックのカフェに勤めていたんですが、実は徳島へ戻る気はまったくなかったんですよ。ただ、子供の頃から「海と山と川があるところに住みたい」という漠然とした思いがあって、あるとき「それは徳島のことだ」と気がついたんです。

--なるほど。そこで生まれ育った徳島市へ戻ることを決意されたのでしょうか。

河﨑さん:実は大阪から徳島へ戻ってきた当初は上勝町へ移住したんです。そこで薬草やハーブ類を栽培する仕事をしていました。変な言い方になりますけれど、徳島市はやっぱり都会なんですよ(笑)。移住を考えている方には分かって頂けると思うのですが、当時の私は「移住先は田舎であればあるほどいい」という風に考えていて…。でも、約8ヶ月間、暮らしてみて分かったのは、今の自分は山奥で生活がしたいわけではないという事実でした。(笑)。それで徳島市にもどり、祖父母が住んでいた古民家を活用しながら活動していこうと思ったんです。

街の中で昔ながらの古民家を守っていくこと。

--それで河﨑さんが始めたのが“nomatik”という名前でのさまざまな活動ですね。

河﨑さん:そうですね。この“nomatik”という名前自体が、もともと祖父母の家の屋号だった“北門(kitamon)”を逆にしたものなんです。2012年に上勝町でシェアカフェをしていた頃から使っていた名前なんですが、正式に名乗るようになったのは徳島市へ戻ってきてからになりますね。菜食料理教室をメインに、農作業や手仕事体験、映画の上映会やマーケットなど、いろいろな人が集まって思いをシェアできるような活動に取り組んでいます。

--基本的には“nomatik”としての活動はこの古民家で展開されているのですか。

河﨑さん:完全予約制で行っている月1回から2回のヴィーガンカフェはこの家で行っています。料理教室や手仕事のワークショップなど、大人だけの活動であれば心配ないんですが、この古民家もあちらこちらが傷んできて、そろそろ軒は修繕しなければいけない状態。そのため『おーがにっこマーケット徳島』のような不特定多数の方が訪れるイベントの開催は難しいですね。その代わり、県内各地でご縁を頂いたイベントに参加したりもしています。

--それでも、やはりこの場所を拠点として活動することにこだわりがあるんですね

河﨑さん:街の中で昔ながらの古民家や田畑を維持していく。そこに大きな意義があると思うんです。ここは鳥や蛙、虫もいっぱい集まってきますし、さながら「都会のオアシス」のような場所。いろいろなイベントで足を運んでくれた方々も「ホッとする」と言う方が多いんです。それはきっと年月を経た建物ならではの力なんでしょう。もう誰も住んでいるわけではないので、思いきって壊してしまい、新しく建て替えるのは簡単なこと。でも、一度なくなってしまった古いものは、もう二度と戻すことはできません。ずっと人が集う場として使い続ける方法を考えたいんです。

さまざまな人が交流する場をつくるために。

--徳島でマクロビオティックの活動は、どのくらい認知されているのでしょう。

河﨑さん:東京や大阪などの大都市と比べてしまうと、どうしても認知度は高いとはいえませんが、説明すると興味を持ってくれる方は多い印象ですね。必要とされている方からの口コミで情報が伝わっていくので、人とのつながりによって来ていただいているような感じです。ほとんどは女性ですが、子供のアトピーなど家族の健康を考えて参加される方も少なくありません。2015年の秋冬からはNHKカルチャー文化講座の講師としてローフードマイスター講座もスタート。おかげさまで2016年の春夏も継続が決定するなど、着実に認知度は高まっています。

--マクロビオティック料理教室やヴィーガンカフェでは徳島産の野菜が中心ですか。

河﨑さん:料理教室やカフェでつくるメニューでは、彩りなども大切な要素になりますので、果物まで含めると、すべてを徳島産で賄うのは難しいんですが、お米や野菜に関しては、ほぼ地元の自然栽培や無農薬、有機栽培のもので揃うようになってきました。徳島は美味しい野菜がいっぱい収穫できますし、熱心な生産者の方が多いような気がします。

--最後に徳島市へ移住を考えている人へのメッセージをお願いします。

河﨑さん:田舎へ移住したいけれど、いきなり山奥や海辺はハードルが高すぎる…。そんな風に考えている方にとっては徳島市は適度なところだと思います。仕事もいっぱいありますし、利便性もいい。大都市圏から環境のいい場所への移住の選択肢の一つに加えてみてほしいですね。一言で「徳島市」と言ってもけっこう広いんですよ。山や海に近いところもありますし、いろいろ検討してみる価値はあると思います。私も“nomatik”として、この土地でいろいろな活動をしながら、移住者の方を含めたさまざまな人が交流できる場をつくっていきたいですね。