氏脇英哉さん
出身地:兵庫県
移住年:2015年
現住所:小松島市
職業:とくしま有機農業サポートセンター
取材年月:2016年2月
次世代の農業者育成や種苗事業を行っている「とくしま有機農業サポートセンター」。氏脇さんがセンター長として小松島にやってきたのは2015年のことでした。農業への深い思いや、移住の感想についてお話を伺いました。
小松島の農業に魅せられて。
--小松島に来られる前も、農業関係のお仕事をされていたのですか?
氏脇さん:生協の中でも安全性の高い商品にこだわった「コープ自然派」や種苗会社など、さまざまな農業関係の会社にお世話になってきました。今から10年ほど前は、無農薬や有機農業の認知度が低く、安全安心への感心も今のように高くはなかった時代です。私自身、いろんな仕事に携わる中で日本有機農業普及協会の代表理事を務める小祝政明さんのこと知り、より深く農業に興味を持つようになりました。
--小祝政明さんと言えば、今お務めになっている「とくしま有機農業サポートセンター」の校長をされていますね。
氏脇さん:小祝さんが提唱されている理論に「BLOF理論」というものがあります。日本語に訳すと「生態系調和型農業理論」と言いますが、平たく言えば、土に過剰な養分を与えず、バランスのとれた土壌環境を作ることで良い作物を育てる考え方です。私も彼の講演を聞くため、よくプライベートで全国各地に足を運びました。小祝さんが当センターの校長を勤められていたことも、私がここで働きたいと思った理由の一つです。
--小松島の農業には、どのような魅力を感じられましたか?
氏脇さん:自治体と生産者の距離がとても近く、市を挙げて農業改善に取り組まれている姿に驚きました。官民が一体となった「小松島市生物多様性農業推進協議会」が設けられていて、多収穫で高品質な栽培技術の普及が図られています。向上心のある生産者にとって、本当に素晴らしい環境が整っていると思います。
人を育て、苗を育てる。
--センターの主な取り組みを教えてください。
氏脇さん:大きく2つの柱があります。その一つが「農業者育成事業」です。全国的に農業者の高齢化が進んでいて、今後の日本の農業が成り立っていくのか懸念されています。当センターでは農水省の補助などを受けながら、次世代の農業者を育てるための活動を行っています。
--センターには研修生が生活するための寮なども備えられているんですね。もう一つの柱は何ですか?
氏脇さん:農家や一般の方に向けた「育苗事業」です。よく農業界では「苗半作」という言葉が使われます。良い作物を育てる要素の約半分は、苗で決まるということを表した言葉です。それぐらい苗は大事なもので、もし失敗すると生産者の収入にも関わってきます。当センターでは春物や秋物の野菜苗を栽培し、企業や地元の産直市に卸しています。今回の春物だけでも、企画している苗の数は20種類近くに及びます。
自然も食も、豊かさに満ちている。
--小松島に移住した感想は?
氏脇さん:田舎でとても住みやすい地域だなと。センター周辺は山に囲まれていますが、すこし走れば海がある。自然あふれる環境の中で豊かに暮らすことができています。あと、お米がすごくおいしいのも特徴ですね。地元農協の「JA東とくしま」のお米は、食味値90点以上のものがすごく多いそうです。他県からも「なぜそんなことができるのか」と注目されていると聞いています。
--農家のこだわりが、地元の人が口にする食べ物にまで良い影響を与えているんですね。
氏脇さん:市内には「あいさい広場」という大きな産直市があって、地元の生産者たちによる野菜や果物、加工品などが勢揃いしています。都会の人は、その安さとおいしさに驚かれると思いますよ。
--今後の抱負をお聞かせください。
氏脇さん:日本の経済は都市中心型になっていますが、地方にもこんな良い所があるということをもっと伝えていきたいです。そして、地元の方々とも今まで以上に協力しながら、若い農業者を育てることにより、より良い作物を育てるためのノウハウをさらに積み重ねていきたいと思います。