伊勢加奈子さん
出身地:兵庫県
移住年:2015年
現住所:美波町
職業:無職
取材年月:2015年11月
旅好きで、学生時代はユース・ホステル同好会に所属し、各地を巡ったという伊勢さん。徳島へ移住しようと、思い切ってかけた電話がきっかけで凄腕移住コーディネーターと出会い、今、長年思い続けた夢が、ジェットコースターのように猛スピードで実現しようとしています。
役場へメールし、移住コーディネーターを紹介いただきました
--移住希望ということで、まずは役場にメールを送られたそうですね。
伊勢さん:そうですね。昨年の9月にメールして、移住コーディネーターの小林陽子さんを紹介いただきました。小林さんは空き家のマッチングや、移住・定住のためのサポートを行っていて、「こっちに来れる?」と言われたので美波町へ。小林さんの車の助手席に乗って、5軒くらい空き家を見て回り、最後に案内してもらったこの場が、ほぼ私の理想通りのところでした。
--理想の場所とはどんなところだったんでしょうか?
伊勢さん:「ポツンと感のある場所」で、川沿いがいいな~と思っていました。3年くらい前から3~4ヵ月に一回くらい、牟岐町の美容室に神戸から通っていたので、このあたりに住みたいとは思っていました。カットのついでに足をのばし、日和佐川、牟岐川、海部川…と自分でも川沿いの家を見て回ったりしていましたね。「田舎暮らしをしたい」という人の中でも、「町中がいい」という人と「郊外がいい」という人に分かれると思うんですが、私は断然、郊外。ご近所さんもいないような自然の残る場所がいいと思っていたんですが、「あまりにも寂しすぎるからやめて」と小林さんに言われました(笑)
--以前から田舎暮らしに憧れていたんですか?
伊勢さん:物心ついたときから田舎が好きで、小学校の頃は「ムツゴロウさんのところで働く!」と思っていました(笑)。高校時代はユース・ホステル同好会に入っていて、北海道には「旅人宿」という学生などが利用できる安い宿があるんですけど、大学の時は1ヵ月、そういった宿でアルバイトをした経験もあります。そうして国内の田舎町を巡るうち、たまらなく田舎が好きになり、日本人がいないような海外へも行きたかったんですが、「それだけは勘弁してくれ」と親に止められました。母は都会派なんで、田舎嫌い、虫大嫌い。キャンプをするような家族でもなかったので、「誰に似たんだろ?」って言っています。
--田舎で暮らすのは徳島が初めてですか?
伊勢さん:安曇野に住んでいたことはあります。村の公共宿泊施設に勤めていた時期もあり、フロントとか厨房の仕事をしていました。その時、漠然とですが、「宝くじが当たったら、山奥で朝食とパフェを出す趣味の喫茶店をしよう」と思って、夢の夢と思いつつも、調理師免許もとりました。その夢も結婚しているときは「あり得ない」と思っていたんですが、離婚して、飼っていた犬も死んだら、もうなんでもできるじゃないですか!家を探していたら、この場所も見つかって。「山があって、川があれば、それで充分」と思っていたのに、海まであって、夏には熱帯魚も来ますし!小林さんに会ってからジェットコースターのようにいろんなことが進んでいき、遅まきですけど、今は一人を最大限に活用しようと思っています。
古民家をコツコツ直していくのって、楽しいですね
--古民家をご自身で改修して、民宿をされる予定と伺いました。
伊勢さん:女性のお遍路さんや一人旅の人が泊まれる黄昏宿をしたいと思っています。この家は築80年くらい。大家さんは買い取って欲しかったようですが、後に残して親戚に迷惑をかけてもいけないので、月1万円(ひとまず5年で更新の契約)で借りています。
--改修にはかなりの費用がかかったのでは?
伊勢さん:改修費用は5年以上定住することを条件に、改修費の3分の2(上限200万円まで)を町の助成金でまかない、浄化槽を入れたり、水回りや母屋を中心に直しました。離れは建築家の学生さんたちが、古民家改修の実技を学ぶワークショップに提供し、みんなと一緒に作りました。古民家はこの先も手入れが必要なので、職人さんに壁の塗り方など教えてもらい、今も一人で細々したところをコツコツ直しています。8月に引っ越してくるまでは障子も貼ったことがなかったんですが、楽しいですよ。壁を全部塗り終えたら、「壁ロス」になりそう。
流れ星もポロポロ落ちてくる、日常が心地いい場所です
--住んでみた感想をお聞かせください。
伊勢さん:日常、気持ちいいです。水の音と、風と、太陽もキラキラ、朝靄もいい。星もキレイし、流れ星もポロポロ落ちてくる。ここは本当によく見えるんですよ。夏は蛍もたくさん飛ぶし、いいですよ。
--こちらに来て不便ではないですか?
伊勢さん:特に不便はないですね。来春開業の予定はどんどん延びていますが、半年か1年くらいは住みながら様子をみようと思っていたので、今では「再来年の春、開業」と言うようにしています。ここに泊まってもらったら、この近辺の“ちょっといいところ”へも案内したいと思っていたので、1年居てみて、まず私自身が慣れないと。部屋の壁も「○時~○時はこの部屋に陽があたるから、それに合わせて色を決めよう」とか、そんな風に思っています。
--田舎の人間関係や人付き合いには慣れましたか?
伊勢さん:お隣さんに声をかけてもらって、毎週水曜の午前中に公民館で60代以上の方が集まるお茶会に顔を出しています。顔見知りにもなるし、いろんなことを教えてもらえるので、行ける日は行くようにしています。普段は一人こもって作業しているので、仕事をしていたら休憩時間にするような他愛のない話をできる場所があるのは嬉しいですね。中途半端に知り合いや親戚がいたら、「もう知ってるやろ?」と思って相手も言わなかったり、こちらも聞きにくかったりすることも、「いっそ何も知らなくていいかもしれないよ」と。一から教えてもらい、徐々に溶け込んでいけたらと思っています。