移住者インタビュー

Interview

Iターン30代三好市

大切なのは「自分」を知ってもらうことです。

西村耕世さん

出身地:大阪府

移住年:2014年

現住所:三好市

職業:会社員

取材日:2015年10月

大阪の広告・出版業界でキャリアを積んでいた西村さんは、2014年に祖父母の地元へ戻った「孫ターン」の一人。平日は老舗旅館を改装したサテライトオフィスで働き、休日は畑仕事に勤しむという移住者ならではのライフスタイルには、憧れを抱く人も多いのではないでしょうか。

祖父母の家を守るため、移住を決意しました。

--今回は仕事場で取材をお願いしたのですが、とても風情のある建物で驚きました。

西村さん:初めての方はびっくりしますよね(笑)。もともと県西部随一の老舗旅館として知られたところで、昭和天皇もご宿泊された由緒ある場所だそうです。残念ながら2008年に惜しまれつつ閉館したのですが、その一角が東京に本社がある企業のサテライトオフィスになっています。平日はここから全国各地にいるクライアントを遠隔地からサポートをする仕事をしているんですよ。

--西村さんは生まれも育ちも大阪ですよね。三好市へ移住したのはなぜですか。

西村さん:両親とも三好市の出身なんですが、移住のきっかけは祖父母が亡くなったこと。父の生家が空き家になってしまったんですが、先祖代々の畑やお墓があるので、誰かがそこを守っていく必要があって。京都で暮らす両親と相談した結果、僕が移住するということになりました。長男なので家を継がなければという思いもありましたし、年齢を重ねてからの移住よりも、早くから生活の基盤を整えるためには、いいタイミングだったといえるかもしれません。

--移住前に「やっていけるかな…」という心配やご家族の反対はありませんでしたか。

西村さん:妻も快く賛成してくれたので、家族の中では特に問題はなかったですね。こちらには親戚もいますし、住むところもありますから、生活面に関しては心配はしていませんでした。ただ、仕事を探すのは少し苦労しましたね。都会と比べると選択肢が少ない上、インターネットで検索しても情報が出てこない。結局、親戚から話を聞いたり、地元の合同就職説明会へ参加しましたが、なかなか自分に合う就職先が見つからなかったんです。今の会社と出会えなければ、車で何時間もかけて通勤することになっていたかもしれません。

「何となく過ごす」時間はなくなりました。

--実際に三好市に移住してきて、いろいろな意味で予想と異なる点があったと思います。

西村さん:「物価が都会と変わらない」という点は予想と違いました。大量に収穫できる野菜以外は一緒ですね(笑)。価格競争が行われていないため、生活雑貨は選ぶ幅も多いとはいえませんし、多少は高いかもしれません。自分の生活で大きく変わったのは家族と過ごす時間が増えたこと。移住して一番嬉しかったのはそこですね。毎日、子どもたちと一緒にお風呂に入る生活になりました。大阪で働いていた頃は、早朝に出勤して夜遅く帰宅する日々だったので、精神的にも身体的にも楽になったと思います。

--こちらに移住してから、初めて畑で野菜づくりを始められたそうですね。

西村さん:畑仕事は父から教わりながら挑戦していますが、ずっと試行錯誤の連続ですね。今はタマネギやピーマン、大根や白菜、落花生などをつくっています。収穫直前に野生の猿に食べられてしまったり、都会では考えられないような経験もありますが、自分の手でつくった野菜は格別の美味しさ。家族だけでは食べきれないほどの量ができるので、ご近所の方にお裾分けしたり、地元の産直市に出荷するようにしています。やることがありすぎて、都会にいた頃のように「何となく過ごす」時間はなくなりました。父はこちらに帰ってきたらピザ窯をつくりたいと張り切っていますし、ますます忙しくなりそうです(笑)。

 

誰だって「知らない人」には警戒しますよね。

--子育ての面でも大きな変化があったと思いますが、地域との関わりはいかがですか。

西村さん:上の子は5歳、下の子は2歳ですが、どちらも楽しそうに遊んでいます。子どもの人数が少ない地域だからこそ、きちんと先生が世話をしてくれる安心感がありますね。地域の人たちが子どもを大切に扱ってくれるのがわかりますし、親としては有り難い環境です。都会でマンションに住んでいた頃には隣近所との交流もありませんでしたが、こちらはご近所全員が顔見知りの関係になりますから(笑)。いわば大きな「地域の目」が子どもたちを丸ごと見守ってくれる感じです。すれ違う誰もが自然に挨拶をする習慣があるのも、子どもの教育にとっては素晴らしい環境だと思っています。

--地域の人々とつながりを持つには、どのような努力が必要なのでしょう。

西村さん:「田舎は閉鎖的」というイメージがあるかもしれませんが、誰だって知らない人が引っ越してきたら警戒しますよね。そこで心を開いてもらうには、まず自分からオープンにしていく姿勢が大切です。そもそも自分たちが何者で、どんな事情で移住してきたかを話すことを怠ってはいけないと思っています。僕たちが移住してきた翌日は秋祭りの日だったんですが、近所の方に誘われて参加したおかげで、精神的な距離が縮まったような気がします。すぐに顔や名前を覚えてもらえましたし、そこから地域の集まりにも顔を出しやすくなりました。

--最後に移住を考えている方へのメッセージをお願いします。

西村さん:たとえば、自然が豊かということは、夏の暑さや冬の寒さが厳しいということです。人間関係の面でも、冠婚葬祭はもちろん、隣近所の方々とは助け合いが当たり前の生活になりますが、実はそこが最大の魅力なんですよ。都会とは違う環境で起きるいろいろな出来事をどう捉えるか。それを「苦しい」と感じてしまうのではなく「楽しい」と思えれば、きっと移住生活は毎日が充実した時間になると思います。