移住者インタビュー

Interview

支援団体専門・その他阿南市

僕らの強みはチームワーク。町づくりもスポーツ感覚。これが“加茂谷スタイル”やと思ってます。

会長 山下和久さん(写真左)/事務局長 柳沢久美さん(写真右)

加茂谷元気なまちづくり会

取材年月:2016年5月

『加茂谷元気なまちづくり会』は遍路道保全の取り組みのほか、最近は就農移住者のサポートも行っていて、短期間で収入を得やすく、初めて農業をする人でもリスクの少ない葉物野菜を中心とした農業を推奨。加茂谷地区独自のノウハウに加え、手厚いサポートが注目を集めています。大学生インターンの受け入れも積極的に行い、地域の人たちも学生を一緒になって汗をかく体育会系のようなチームワークで自然と絆を育み、加茂谷を好きになる人が増えています。

葉物だったら初めて農業する人でも失敗が許されるけんな。

--加茂谷で農業というと何が主流になるんでしょうか?

山下さん:主にはいちごと青梗菜、サンチュ、ハウスすだち、ハウスみかん。この5品目くらいやね。

柳沢さん:昔は勝浦町と同じでみかんの産地だったんよ。それが昭和56年(1981年)の大寒波でみかんがアカンようになって、ハウスみかんに変えて、ハウスみかんがまたアカンようになってすだち、すだちが今度ハウスすだちになって…っていう流れやな。

--青梗菜などの葉物野菜を作られるようになったのは最近なんですか?

山下さん:30年くらい前になるかな?昭和58年、徳島県の葉物野菜の生産はこの細野町から始まっとんです。

--それはスゴいですね!

山下さん:みかんがアカンようになって「なんか代わりになるものはないか?」と探していた時にJAの営農指導の人が「青梗菜はどうだろうか?」という話をもって来てくれて。それでうちの両親が試作したんが始まりです。

--葉物野菜のメリットはどういうところですか?

柳沢さん:葉物だったら2、3ヵ月で育つけん、すぐお金になる。米とか1年に1回しか収穫できんものや収穫するまで何年もかかる果樹は、失敗すると負担が大きい。だから我々は葉物がいいんちゃうかなと。初めて農業する人でも失敗が許されるけんな。

山下さん:開花が遅れて葉が焼けたり、長年やっとる僕ら自身も去年、一昨年続けて痛い目あっとるけんね。でも夏場だったら1~2ヵ月で成長するけん、売り上げは落ちても、最大10%。葉物野菜は回転が早い分、リスクも小さいけんね。うちは春までは葉物野菜が中心やけど、夏場はトマトとかピーマンとか、ししとうとか夏野菜を作付けしとんよ。季節季節でいろんな野菜を作った方が楽しいし、組み合わせがうまくいくと収入も増える。農業しようと思ったら機械や施設、軽トラなんかで準備資金が700万円くらい必要って言われよるけど、加茂谷ならもっと安くスタートできる。昨年就農マッチングで出会って加茂谷で就農した人は、自己負担100万円くらいで始めたけんね。ハウスのビニール張りとか、僕らがいろいろ手伝ったりしたこともあるけど、これだけサポートする地区も他にはないだろうし、農業をやりたい人にとって加茂谷はごっつい可能性があると思うんやけどね。

--実際のところ、どのくらいの収入になるんでしょうか?

山下さん:さっき言った5品目のうち、イチゴ、青梗菜、サンチュだったらどの品目も年間売上が10aで400万円前後。それで実入りのいい人だったら7割、少ない人だったら半分くらいが収入になるんよね。

--それは夫婦二人で農業をした場合ですか?

山下さん:二人だったら20aはできるけん、収入も倍。個人差はあるけど、就農希望の人には「あなた次第ですよ」って話するんやけどね。

徳島県全域に農業人を呼び込むために、『すきとく市』を活用していったらいいと思うんやけどね。

山下さん:柳沢さんは『すきとく市』の親分。『すきとく市』は柳沢さん中心にスタートしたけんね。
※すきとく市…スーパーマーケット・専門店を経営する徳島県最大の流通グループ・キョーエイと地元生産者が協力して地産地消を推進する販売形態。

柳沢さん:3年前、台風11号の影響で加茂谷中学校が浸水してね。このあたりもかなり被害を受けたんよ。テレビでも放映されたでしょ?その時、加茂谷の再生には「農業を立て直さんといかん」ということになって、『すきとく市』に出店しようと『キョーエイ』の社長に直談判しに行ったんよ。『すきとく市』は自分たちで作った作物に自分で値段をつけて、好きな量だけ出荷できるけん、生産者の儲けが多い。だけどここから一番近い集荷場は小松島で。行くんに手間がかかるけん、「加茂谷に集荷場を作ってくれ!」って頼みに行ったんよ(笑)。

山下さん:そしたら社長がOKしてくれて、塾として使っとったプレハブをもらってきて集荷場を自分たちで作ったけんね。かずらが捲いて耕作放棄地だったところをチェーンソーもってきて、開墾からしとるけん、気持ちが入っとる。県下で自分らで集荷場作ったのは我々だけ。見た目はボロだけど、魂の城だけんね。

--集荷場ができると弾みがつきますね。

柳沢さん:そうやな。『すきとく市』のいいところは、販売データが徳島県内だったらリアルタイムで分かるんよ。関西のデータも次の日には分かる。どの店で何が売れるとか、どんな物がよく売れとるとか、自分達が作りよる物に関して情報が持てる。このシステムがあれば、ちょっとでも何か作れば、すぐお金になるけんね。

山下さん:昔から農協にしか出してない人もおるけど、仮に今、青梗菜を農協に出すとしたらひとつ60円。そのうち農家の手取りは30円くらい。でも『すきとく市』なら店頭価格で138円。手数料が30%引かれて、手取りがざっと100円。絶対に出さんと損だろ?我々の地域だけでなしに、徳島県全域に農業人を呼び込むために、『すきとく市』を活用していったらいいと思うんやけどね。

就農希望なら初心者も歓迎。ただし、経験はなくても体力はいるけんね。

--就農希望の移住者をどうやって見つけているんですか?

山下さん:12月に東京、2月に大阪で就農マッチングという農業移住者に向けたイベントがあって、毎年それに行っきょんよ。それで3月に体験ツアーをやって、実際に現地を見てもらって、説明しよるな。

柳沢さん:初めて就農マッチングに行った時に「こんだけ農業やりたいって人がおるんか!」ってくらい人がごっつい集まってびっくりしたわ。出展しとんは市町村や県とか行政関係、他はメーカーとか農業法人とか。周りを見たらそんな人ばっかり。民間団体で出展しとんは我々だけで、「わしらのところに来るかな?」って言いよったんよ。そしたらいい人が来てくれて、3月の体験ツアーにも5組申し込んでくれて、2組は90%以上加茂谷に移住してくれることになったんよ。

--農業経験がない人でも受け入れてもらえるんですか?

山下さん:我々が指導もしよるし、経験はなくてもいけると思うんやけど、ただ「なんかスポーツしよった?」っていうんは聞くな。経験はなくても体力はいるけんね。「野球しよった」とか「サッカーしよった」とか、「夫婦共にスポーツが好き」とか、「山登りをしよる」とか。そういう話を聞いたら「あぁ、それだったらいける」って、こっちも安心できるし。

--農地や家はどうするんですか?

山下さん:全部世話しよるよ。農地やハウスはどうにかなるけど、頭痛いんは、家。この辺は水害で浸水した家が多いでしょ?そういう所は貸す側も借りる側も躊躇するもんね。行政には事あるごとに「移住者住宅作ってくれ」って頼みよんやけど。

柳沢さん:それでも2家族が移住してきてくれて、子供の数が6人になったんよ。それまでは一人だったけんね。それだけ増えると地区全体の雰囲気が全然違うな。子供が小さい者同士、ママ友らがこの地区へ寄ってくるようになって、「それだったら地区の公民館貸してあげる」「放棄地になっとるけん、そこ借りてあそび場作れだ」って、みんなが集まって世話焼き出して、それを見て「ここに住みたい」って言ってくれる人もおる。人が人を呼ぶ好循環が生まれとるな。

地方に幸せを求める人が増えてきとんね、確実に。そういう人は、加茂谷と出会って欲しいな。

--『加茂谷元気なまちづくり会』は有志によるボランティア団体ですが、就農移住者へのサポートも手厚く、地域の人たちとの結びつきがひと際強いように感じます。

山下さん:上勝だったら横石さん、神山だったら大南さんていうスーパースターがおるけど、僕らの強みはチームワーク。まちづくりもスポーツ感覚。これこそ加茂谷スタイルやと思ってるんやけどね。5月に毎年、『加茂谷鯉まつり』っていうんをやってて、今年で28回目。この実行委員が我々のメンバーとも重なっとるんよ。困っていたら「しゃぁないな」って助けてくれるし、ちょっと無茶言えるんよな。この“あうんの呼吸”がいざというときの底力にもなっとるし、加茂谷スタイルを作り出しとると思うてるんよ。よく聞く話と思うけど、移住の決め手はお世話をしよる人。その人の人柄とか、そんなんが決定力になるんやてね。加茂谷でも“仏のイチロー”て言われる人がおるんよ。『加茂谷鯉まつり』のスタッフは9時集合。早い人でも来るのは1時間前なんよね。でもイチローさんは5時に行って仮設トイレを掃除したり、人の嫌がることを率先してしよんよ。誰に言うでもなく、毎日。そういう姿に触れて、感動した若い人が「また来ます!」って言ってくれたりね…。

柳沢さん:阪神や東北の震災の時でも「ボランティアで駆けつけんか!」って言う人もおるし、いいメンバーが揃っとるな。移住者に対してもどの地区でも基本、「来たいと思う人あるんだったら、受け入れんか」っていう気持ちでやりよんよ。だけど「よそから来る人はどんな人か分からん」「いけるんか?めんどいんちゃうか?(大丈夫か?問題ある人じゃないのか?)」って心配しよる人もおる。そんな人には「自分を見てみいだ!どんなにめんどいか分かるだろ?(自分を見てみろ!他人のことを言えるんか?)」って(笑)。初めからいい悪いっていう目で見ても判断はつかんもん。同じ場所で一緒に生活してみて、判断したらええことやと思うわ。

山下さん:そうやって外から来た人と話よったり、やりとりしよって初めて田舎の良さっていうんが分かるね。マッチングフェアとかに行ってなかった2~3年前は全然気が付かんかったけど、我々の世代とは価値観がだいぶ違ってきて、地方に幸せを求める人が増えてきとんね、確実に。それで加茂谷との出会いがあって、「ここはいいな」「この人、素晴らしいな」って気付いたり、感じたりしてくれたら、来てくれると思う。少しでもそういう人を増やしていけたらいいな。