石井竜生さん・友里さん
出身地:東京都・神奈川県
移住年:2013年
現住所:阿波市
職業:背景美術制作
取材年月:2016年2月
東日本大震災の後、兵庫県を経て徳島県へと移住した石井さん夫妻。アニメーション作品などの背景美術を生業とするご夫婦に「子育てにぴったりな土地を求めて見つけた」という阿波市での生活について、いろいろとお伺いしました。
東京から兵庫、兵庫から徳島へ二度の移住。
--お二人とも出身は関東ですが、阿波市へ移住を決めたきっかけから教えてください。
竜生さん:もともと将来的には「田舎に住みたい」という思いがあったんです。ただ、それはもっと年齢を重ねてからの話で「すぐに移住しよう!」と考えていたわけではありませんでした。もちろん、移住先の候補も決めていませんでしたから、2011年に東日本大震災が起きなければ、今でもどこかへ移住することなく、しばらくは東京で暮らしていたような気がします。
友里さん:私たちが移住するきっかけは、東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故でした。まだ子供が生まれる前でしたが、将来的な子育てのことなども考えた結果、やっぱり不安を感じてしまうので、早いうちに空気や水が綺麗なところへ移住しようと話し合って。最初は友人に住むところを紹介してもらって兵庫県へ移住したんです。ただ、想像以上に付近の交通量が多かったりしたこともあり、より環境のいい土地への移住を相談して決めました。
--兵庫県からの移住にあたって、特にお二人がこだわっていたポイントはありますか。
竜生さん:そうですね。できるだけ緑が多い場所、そして、川が近くにあるような場所がいいなと考えていました。候補になったのは鳥取、岡山、高知など。親との同居も視野に入れていたため、一軒家を中心にインターネットで情報を収集して。特に活用したのは「空き家バンク」でしたが、自治体によって情報の差が激しいので、家を見つけるのはかなり難しかったですね。
友里さん:兵庫県で知り合った方から「四国は良いところ」という話を聞いたんです。行政がきちんと住民の意見を聞いてくれる地域に住みたいなと考えていま した。阿波市は農産物が豊かなところでもありますし、地元の食材で子供たちの給食を賄うという取り組みもいいなと感じたことを覚えています。それから、強い電磁波の影響を受けると頭が痛くなったり、何かと体調が悪くなることがあるので、そういう心配がなさそうな土地を選ぶようにしました。
都会でなくてもできる仕事が一つの強みに。
--移住先を探す方法としては、やっぱりインターネットが中心だったのでしょうか。
竜生さん:情報収集のメインはインターネットでした。基本的には自治体のウェブサイトを閲覧して…。ただ、さきほども言いましたが、地域によって差が大きい点は困りましたね。それから、僕たちのような移住者にとっては、土地だけではなく、住まいに関する情報も必要なんですよ。とはいえ「空き家バンク」くらいしか情報収集のルートがないのは辛かったですね。
友里さん:結局、自分で何とかアプローチして問い合わせないとわからないことばかり。移住フェアや相談会のようなイベントにも行けば良かったんですが、それほど頻繁に開催されているわけでもないですし、実際はなかなか参加できないですよね。インターネット以外の方法としては、友人や知人から話を聞きましたが、やっぱり情報の幅は限られてしまいますから…。ある程度まで移住先を絞り込んだら、自分の目で現地を確認した方が早いような気がします。
--お二人ともアニメーション作品などの背景美術が生業だとお伺いしました。
竜生さん:東京を離れる少し前にフリーランスになっていたので、どこへ移住しても仕事ができるのは一つの強みかもしれませんね。インターネットで東京のスタジオとやりとりをしているんですが、ここにはケーブルテレビの回線が来ているので、まったく問題はありません。僕たちが手掛ける背景美術は、テレビで放映される作品だけではなく、イベントやゲーム、アーティストのプロモーション映像などに使われたりと、さまざまなジャンルに広がっています。
友里さん:阿波市に移住してすぐの頃までは、まだポスターカラーを使った背景画を描くこともありましたが、今は完全にデジタル環境での制作になりました。アナログでの作業になると、地方へ移住した場合、画材の入手が心配になりますが、今は通信販売も充実しています。自分が使ったことのあるものであれば、それほど心配はいらないんじゃないかと思います。
等身大の生活が後悔のない毎日へつながる。
--自宅で仕事をするスタイルだと、地域の方々との交流は少ないのでしょうか。
竜生さん:僕の方は最初に移住した兵庫県で、あまり地域の方と接する機会がなかったんですよ。阿波市に来てからは、当時の反省を生かして、二人で積極的に外へ出ていこうと相談していました。近所の方々とは挨拶を欠かさないようにするなど、コミュニケーションを大切にしています。
友里さん:近所に顔役のような方がいらっしゃるので、スムーズに地域へ溶け込むことができたと思います。畑を借りるときに協力していただくなど、いろいろとお世話になっているんです。畑ではいろいろな野菜をつくってみたんですが、落花生が上手くできて嬉しかったですね。
竜生さん:移住したら畑で野菜を育ててみたいと思っていたんですよ。ミニトマトやじゃがいもなどを育ててみたのですが、農業をやっている移住者の方たちと一緒に、新たに田んぼを借りて無農薬でお米をつくる計画もあるんです。特定非営利活動法人(NPO)めだかの学校にも参加していることもあり、これからはますます地域と密接に関わる時間が増えていきそうですね。
友里さん:阿波市観光協会が主催の料理教室に夫婦で参加したり、阿波市の一般家庭が自慢の庭を開放するイベント「オープンガーデン」の一環でハーブの苗を育てて販売するお手伝いをしたり。少しずつ私たちと同じように阿波市へ移住されてきた方々との交流も増えていますね。
--実際に移住してから「これは予想と違った」ということを教えてください。
竜生さん:そうですね…。東京や兵庫にいた頃は自転車で移動するのが基本だったんですが、徳島へ移住してからは、とにかく車で移動するので歩かなくなりましたね。それから、築85年という古民家に住んでみると、家の中でもいろいろな虫が出るんですよ(笑)。夏には蚊帳を吊ったりも。そういう面では、都会から移住してくると、ある種の覚悟が必要かもしれませんね。
友里さん:予想外といえば、移住してきたときは知らなかったんですが、阿波市は「乳幼児医療費等の助成」があるため、小学校6年生までの子供の医療費のうち、保険診療の自己負担分が無料になるんですよ。これは子供を持つ親としては有り難い点の一つだと思います。そのほかにも車のチャイルドシートの購入補助があったり、市内のあちらこちらに子育て支援センターにあるなど、全体的に“子育て世帯へのサポートが手厚い町”という印象がありますね。
--最後に移住を考えている人へのメッセージをお願いします。
竜生さん:どこへ移住するにせよ、理想を持ちすぎないことでしょうか。あまりにもいい想像ばかりだと、実際の生活とのギャップに挫けてしまったりするのではないでしょうか。住まいはじっくり時間をかけて探してください。インターネットの情報はあくまでも目安ですから、できるだけ現地へ足を運び、ウェブサイト以外の情報を自分の目で確かめるべきだと思います。
友里さん:何度も移住先の候補となる土地には訪れた方がいいですね。朝・昼・夜はもちろん、晴れの日や雨の日など、時間帯や天候、季節によって、どれだけ環境の変化があるかも知っておくと、それだけ安心できると思います。私たちの場合でいえば、冬の寒さは予想外でした(笑)。移住を支援している特定非営利活動法人(NPO)や団体のサポートを受けてもいいのでは。
竜生さん:実際に住んでみなければわからないこともあるでしょう。阿波市は自然が豊かな場所ですし、観光協会にも移住者の方がいるので、外から来た人の声も届きやすいという印象があります。僕たちも地域とのつながりは大切にしながら暮らしていきたいですね。