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「視聴覚障がい者支援センター」を見学させてもらいました!~にっしん~

2023.03.24

「視聴覚障がい者支援センター」を見学させてもらいました!

『徳島県立障がい者交流プラザ』内の視聴覚障がい者の支援の場「視聴覚障がい者支援センター」を見学させてもらいました。

見学に訪れたのは、私が大学院生だった頃に盲学校の通学路について研究していて、徳島県ではどういった視覚障がい者の支援が行われているのか、気になったためです。徳島県での支援内容について同センター主任の三井さんにお話を伺い、施設を案内してもらいました。

リンク:横浜市盲特別支援学校の通学路計画
https://drive.google.com/file/d/19J-Ia64vrD-argQjfuMXttWlp_rGOnT-/view?usp=sharing

三井さんの仕事は?

三井さんが「視聴覚障がい者支援センター」に勤務されるようになった経緯を教えてください。

三井:もともと私は京都府出身で、縁があり徳島県に引っ越してきました。移住してしばらくは一般企業で働いていましたが、以前働いていた福祉の仕事に戻りたいという気持ちが強くなり、当法人の採用試験を受けて、「視聴覚障がい者支援センター」で働くことになりました。

「視聴覚障がい者支援センター」で働き始めてからご苦労されたことはありましたか。

三井:大学時代は手話サークルに所属していました。その活動がきっかけで京都では聴覚障がい者福祉の仕事をしていました。しかし「視聴覚障がい者支援センター」では点字図書館の点字担当だったため最初はとても不安でしたが、職員やボランティアの方々に育てていただきながら何とか仕事をこなしてきました。

■展示・体験室

施設内の「展示・体験室」には視覚障がい者に寄り添って開発されたいろいろな福祉機器が展示されています。

こちらはオセロですね。

三井:こちらは視覚障がい者も楽しめるように開発されたオセロです。盤のマス目の仕切りが凸状に浮き上がっており、コマの黒面に渦巻状の凸線が施してあります。

マス目の位置とコマの色が触覚を利用して判断できるわけですね。

三井:そのとおりです。「視覚障がい者も楽しめる」といっても、通常のオセロとルールは同じです。ルールを変えないことで、視覚障がい者と晴眼者が一緒に遊ぶことができます。

これは卓球のセットに似ていますが、ラケットにはラバーがないですね。ピンポン玉は揺らすと鉄のぶつかるような音がします。

三井:視覚障がいのある選手が行う卓球競技「サウンドテーブルテニス(STT)」のラケットとピンポン球です。ルールは卓球台の面から4.2㎝上に張ったネットの下を、ラバーを貼っていないラケットを使って、ボールを転がして打ち合います。ボールの位置を掴む手がかりとして中に金属球が4つ入っています。

オセロとは違って、通常のルールが大きく変更されているんですね。

三井:通常の卓球のルールでは視覚情報がないと競技の難易度がかなり高くなってしまうので、視覚障がい者が楽しめるようにルール変更や工夫がなされています。

これはなんでしょうか?

三井:こちらは「わさび警報装置」といって、わさびのにおいがする気体を噴射する警報装置です。

ユニークな警報機ですね。なぜワサビのにおいがするのですか。

三井:この商品は「睡眠時に火災が発生した場合、警報音が聞こえないので避難に遅れるかもしれない」という聴覚障がい者の不安に寄り添って開発されました。開発チームは睡眠時に起床を促せるにおいとして「わさび臭」に辿り着き、何度も臨床実験を繰り返し完成しました。実際に不特定多数の人が利用するホテルや聴覚支援学校の警報装置として取り入れられています。

「わさび警報装置」は命を守るために真剣に考えられた商品なんですね。

三井:そういう点が多くの人に認められて、この商品は2011年に「イグノーベル賞」を受賞しました。

三井さんに福祉機器を紹介していただき、健常者が日常的に利用する機器にはどのような障がい者へのバリアが潜んでいるのか理解することができました。

■点字印刷室

次に案内していただいた「点字印刷室」。点字とは視覚障がい者が、指で読んだり、書いたりする文字です。「点字印刷室」では点字の情報媒体の製作を行います。

点字はどうやって製作されるのですか。

三井:以前は一点一点コツコツと点字を打っていました。現在はパソコンでデータを入力して、この「高速点字プリンタ」で印刷します。点字は規格で大きさが決まっていて、すべて仮名。そのため健常者が読んでいるような本を点字にするとページ数はかなり増えます。

点字専用の印刷機があるのはとても便利ですね。

三井:ただ「高速点字プリンタ」の場合だと、ごく稀に点字が部分的に薄くなったりすることがあります。
そのため国政選挙の公報などは「全自動点字製版機」で亜鉛板に点字を打ち、その亜鉛板の間に点字用紙を挟み込んでプレス機で圧力をかけて、点字を作ります。

「高速点字プリンタ」での点字製作に比べてかなり手間がかかりますね。

三井:確かに手間は掛かりますが、選挙は国民に与えられた権利なので障がいの有無に関わらず、しっかりと情報保障することが何より大切です。

「選挙は国民に与えられた権利なので障害の有無に関わらずしっかりと情報保障することが何より大切」という三井さんの言葉がとても印象に残りました。その言葉からは障がい者の積極的な政治参加が未来の生活に必ず反映されるという確信と、その情報提供をしっかりと担わなければならないという責任を感じました。

■点字・録音図書閲覧室

ここには読書困難者に寄り添った様々な図書があり、そのほとんどは点訳・音訳ボランティアによって製作されたものです。

「点字・録音図書閲覧室」の利用対象者について教えてください。

三井:「点字・録音図書閲覧室」の利用・図書の貸出が可能なのは視覚障がい者やディスレクシアなど読字に困難がある方や、上肢障がいによって書籍を持つことやページをめくることが難しい方などです。
というのも、2019年に「読書バリアフリー法」という法律が制定されました。その法律では読書困難を抱えているのは決して視覚障がい者だけではないと定められ、読書困難者の定義が広がりました。

徳島県は全国的に見ても早いうちから読書バリアフリー推進計画を作成しました。
公立図書館や学校図書館等、関係機関と協力しながら、県内の読書バリフリーについて取り組みを進めております。

(文部科学省「視覚障害者等の読書環境の整備(読書バリアフリー)について」)
link:https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm

こちらはどのような読書支援機器ですか?

三井:これは「拡大読書機」といって、下に置いた資料をカメラで読み込んでディスプレイの画面に投影します。さらに右手のレバーを回すと資料を拡大することができます。

この機器があれば資料の文字が小さくて見えないという方の障壁が取り除かれますね。

三井:文字を大きくするだけではなく、色弱の方にも対応して前景や背景の色を変えることもできます。また紙の文章をテキスト化し音声で読み上げるという機能もあります。

 

本棚には徳島県にゆかりの本も音声版がありますね。

三井:デイジー(Digital Accessible Information System)といって、視覚障がい者など活字を読むことが困難な方のために製作されたデジタル図書です。デイジーは音訳ボランティアの方々のご協力をいただいて製作しています。

音訳ボランティアになるには、どうすればいいですか。

三井:毎年開催している音訳ボランティアの養成講座を受講し、それを修了されると正式に音訳ボランティアとして登録されます。音訳ボランティアにはこちらの施設にある録音室を使用して録音図書などの製作をしていただいております。

デイジーはCD再生機で聴くことはできますか?

:デイジーは通常のCD再生機では聞くことはできません。「プレクストーク PTR3」などの専用プレイヤーや、専用の再生ソフトウエアをインストールしたWindowsパソコンで聞くことができます。

「マルチメディア デイジー」とはどのようなバリアフリー図書ですか?

三井:「マルチメディア デイジー」は表記された文書を音声で聞きながら、画面上で絵や写真を見ることができるバリアフリー図書です。読み上げている文章の色が変わるハイライト機能などもあるため発達障がいの方にも有効な図書として注目されています。またパソコンやタブレットによって操作が可能なので、ページをめくることが困難な上肢障がい者にも利用されています。

今後、録音図書が一般貸出される可能性はあると思いますか?

三井:録音図書の一般貸出が可能になってしまうと出版業界の売り上げが減少してしまう可能性が高いため、出版業界では権益を守りながらそれをどこまで譲歩できるかという議論が積極的に行われています。一般貸出が行われる可能性はそれほど高くないと思いますが、読書困難者の定義が広がり現在より多くの方に録音図書の貸出が可能になることはあると思います。

「点字・録音図書閲覧室」では三井さんに様々なバリアフリー図書を紹介していただきました。
いろいろな種類のバリアフリー図書があるのは、人それぞれ異なった読みにくさがあるからです。
すべての人が読書の恩恵を受けられる社会を目指して「視聴覚障がい者支援センター」のお仕事はこれからも続きます。

■今後のビジョンとメッセージ

これから力を入れていこうと考えていることを教えてください。

三井:今日は情報が向こうからやってくる情報過多な時代です。そのため情報を発信するだけでなく、世の中に溢れるさまざまな情報を適切に判断・活用する能力を身につけるための支援も重要と考えています。

最後に記事を読んでくれた人へのメッセージをお願いします。

三井:バリアフリー図書の製作など視聴覚障がい者の支援でご協力していただけることは色々とあります。ご興味がある方はお気軽にご連絡ください。

投稿者:にっしん

石川県出身、徳島美波町で地域おこし協力隊をしています。徳島のおもしろい人を見つけて発信して行きたいと思います。

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